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[第17回]阿部絢子さん

 消費生活アドバイザーとして活躍する傍ら、毎年のように海外へホームステイし、環境と暮らしをテーマにした研究をライフワークにしている阿部絢子さん。「モノを持たない暮らし」を実践し、環境に負荷をかけない賢い暮らし方を提案する阿部さんの住まいとは?歯切れ良い語り口には、生活に対する明確なポリシーと、抜群の行動力に裏付けられた、日々の暮らしの愉しさがあふれていました。

居場所が思い通りにならない理不尽さにマンション購入を決意

――都心なのにとても静かな、落ち着いたいいお住まいですね。このマンションはいつ頃購入されたのですか? 阿部「今から11年前、私が53歳のときです。それまではずっと賃貸のアパート暮らしでした。一生シングルで生きていくんだ、という覚悟が出てきた40代後半から物件探しを始めて、ずいぶんと時間をかけてみつけたんですよ」

――やはりシングルで賃貸は不安だと?
阿部「以前住んでいたアパートの向かい側に、同じく賃貸暮らしのおばあさんが住んでいらしたのですが、大家さんの都合でアパートを壊すことになったのに、その方は近くに身寄りがいないため、ずっと立ち退くことができずにいたんです。結局、そうした心労がたたったのか、そのうち入院してお亡くなりになって…。その様子を見ていて、きちんと家賃を払っているのに、居場所が自分の思い通りにならない賃貸住まいの理不尽さを痛感したんです。それで、終の棲家とまでは言わなくても、当面は雨露がしのげて、誰にも気兼ねなく居られる場所を持とうと強く思いました」

――現在はシングル人口もずいぶん増えていますし、中古マンションの購入も一般的になってきましたが、阿部さんはひと足先にそうした生活を実践されていたんですね。先輩として、何かアドバイスはあるでしょうか。
阿部「ある程度の年齢になったら、自分の暮らしぶりに責任を持つことが必要だと思いますね。モノひとつとっても、間に合わせではなく本当に気に入ったものを手に入れて気持ちよく暮らしたい。私はこのマンションに引っ越す時に、モノを3割減らしました。あと、収納スペースの使い勝手が悪いと部屋が乱雑になるし、同じようなモノを買っても気付かないなんてこともあるので、収納スペースを自分仕様に改造することもおすすめです」

――収納に頭を悩ませている人は多いです。モノが少なければそうした悩みも改善されますね。
阿部「大量に購入して大量に消費する生活は、いわば”自然を搾取している暮らし”なんです。そうした意味でも、私はモノを持たない暮らしをしたいと思っているんです」

毎年のホームステイで、モノの選び方を学んだ

――阿部さんはずっと「環境に負荷をかけない暮らし」を提唱されています。海外のホームステイ先も、環境先進国が多いですね。私たちが参考にできるようなお話はありますか?
阿部「ヨーロッパ、アジア、アメリカなどこれまでさまざまな国に行きましたが、環境先進国といわれる国に行く度に驚いたり感心したりしています。例えば、フィンランドの人は、持っている衣類の数が本当に少ない。一人10着、おしゃれ好きな若い人でも30着くらいしか持っていないんじゃないかしら。それで、同じ服を1週間ずっと着ているの。洗濯している時だけ別のを着て、乾いたらまたずっと同じ服(笑)。ゲストルームのシーツにも普通にツギが当てられているし、とにかく質素ですね。経済的には贅沢できないわけじゃないけれど、あえてしない、というのが彼らの環境に対するスタンスなんです」

――衣類の数が少ないというのは初耳です。ホストファミリーが特に環境問題に熱心というわけじゃないんですよね。
阿部「ええ、どこの家もそうです。全体的に、やはり環境に対する意識が非常に高いですね。ドイツ人も環境意識がとても高くて、とにかくモノを買わない。妥協や間に合わせで購入するということはまず無くて、吟味に吟味を重ねて、それでも結局買わなかったり(笑)。どの家も代々使われている古い家具調度品をとても大切にしています。ホームステイ先で、私はモノの選び方をたくさん学びましたね」



「私、ブラシフェチなの(笑)」の言葉通り、部屋の至る所にオブジェのようなブラシが。(上)日当たりのいい窓辺の観葉植物には、実のようにブラシがぶら下がっている (左下)『床の間』的存在のコーナーテーブルにも。左の長いブラシはドイツで購入 (右下)ブラシのほとんどがドイツ製だが、和紙のハタキは南青山の「べにや民芸店」で購入


無垢の大きなローテーブルだけを置いた「和の合理性」を持つリビング。シーリングライトも装飾性の排除と手入れを考え、カバーをはずしている


(左)大工さんに頼んで押入れの仕切りを改造。高さのあるものもすっきり納められる(右)たくさんの本も特注の本棚に整然と収納されている


――実際、阿部さんのご自宅は本当にモノが少なくてスッキリしています。10畳はありそうなリビングダイニングには、とても大きい無垢板のローテーブルが1台あるだけ。清冽な雰囲気が漂っています。
阿部「私は『空間持ちと時間持ちになりたい』といつも言ってるんです。必要な時に出したりしまったり、場所を動かしたりできる”座卓の暮らし”は、日本人の知恵だと思いますね。欧米では、目的別に使う部屋や家具が決まっていますが、日本人は空間の用途を場面で切り替えるというフレキシビリティがあります」

――環境に関してはヨーロッパなどから、空間の使い方は日本と、上手にミックスしていますね。

阿部「私は”一人で生きていこう”と決めたとき、自分なりの暮らしぶりの基準を決めたんです。それは「洋のシンプル空間」+「和の合理性」+「エコに近づきたい」というもの。コレのいいところはね、『掃除がとってもラク』というところなの(笑)。せっかくの一人暮らしだから、自分の時間をたくさん持ちたいじゃない?そのためには、できるだけモノを持たず、モノに振り回されないようにする。これだけでずいぶん生活は変わりますよ」

今は一人ひとりが環境に負荷をかけないように考える時代

――お話を伺っていると本当にバイタリティも行動力もあり、シングル生活を楽しんでいらっしゃるな、と感じます。
阿部「おひとり様には”おひとり様力”が必要よ(笑)。自立していられる力、孤独でいられる力…友人とお互い心地いい距離を保っていくためにもね」

――隣の和室にある小さな木のテーブルはご自身で作られたのだとか。
阿部「いつもは、気に入ったものが見つかるまでひたすら我慢するんだけど、収納付きのローテーブルってあまり見ないから作ったの(笑)。一番嫌なのは、プラスチックやスチールの製品で間に合わせてしまうこと。見た目が美しくないし、大切に使おうっていう気になれませんね。今も仕事部屋の本棚を家具の職人さんに作ってもらっているところです」

――確かに阿部さんのお宅は、全体的に自然素材のものだけでまとめられています。形も色味もナチュラルにまとめられていて、居心地の良さはここにあるのかもしれませんね。
阿部「木は成長過程でCO2を吸収・固定化します。木製の家具を自宅に置くことでCO2削減に寄与しているんですね。これからはもっと木、それも国産材を使う暮らしにシフトしていくんじゃないかしら。今は一人ひとりが環境に負荷をかけないように考える時代。これからもライフワークとして、さまざまな国のエコロジーライフを皆さんにご紹介していきたいですね」

阿部絢子さん プロフィール 
1945年新潟県生まれ。薬剤師として洗剤メーカーに勤務後、フリーライターを経て「消費生活アドバイザー」として消費者の相談にあたるように。日本大学理工学部講師、欧米の環境問題研究、家庭廃棄物処理の実態生活調査などのほか、料理や家事など生活全般にわたる豊富な知識と合理的なアドバイスで、メディアや執筆活動などで幅広く活躍中。著書に『モノを整理してスッキリ暮らす』(大和書房)、『家事名人の生活整理術』(講談社)、「快適に暮らす小掃除術」(集英社)、『「やさしくて小さな暮らし」を自分でつくる』(家の光協会)など多数。
オフィシャルサイト http://ayakoabe.jp/
「男子家事 料理・洗濯・掃除の新メソッド」

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