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[第3回]
社会学者
上野千鶴子さん

「おひとりさまを楽しむ
最低条件は60㎡以上の個室ね」

取材・文 中島早苗
撮影 佐々木信行

 著書『おひとりさまの老後』(法研)が昨年の発行以来、1年余りで28刷、およそ75万部という勢いで売れている。自ら「下ネタ学者として売り出した」と言う女性学、ジェンダー研究のパイオニアである上野千鶴子さんは以来、日本でもっとも有名なフェミニストとお呼びして構わないだろう。

なあーんだ、みんな最後はひとりじゃないの

上野「老後イコール人様のお世話になる、ってことに対して、多くの人は恐怖心、否定の気持ちが強いのね。そう思っていたら香山リカちゃんが『老後がこわい』って本を出したの。だから女性たちに向けて、『OKだよ』っていうメッセージを送ってあげたいと思ったのが、この本を書くきっかけでしたね」
――拝読して「なあーんだ、みんな最後はひとりじゃないの」の見出し通り、超高齢化社会では女性は結婚してもしなくても、最後ひとりになるんだとあらためて気づかされました。
上野「読者には既婚者が多いの、おひとりさま予備軍の人たちね。それまで『家族の中の老後』が常識のように語られていたのを、私はうすうす違うんじゃないかと思っていた。本を出してみたら驚くほど反発がなかった。へえー、時代が変わってたんだと思いましたね。そんなツボにはまったんでしょうね」

土地って、場所じゃなくて人なのよね

――著書の中で、老後をエンジョイする「最低条件は、自分だけの住まい」があること、と書かれていますが。
上野「そう、自分の空間、個室があればいい。これまで(老後に集まって住む)コレクティヴハウスを幾つも見てきたんですが、どれも自分のスペースがものすごく狭い。せめて60㎡欲しいなあと。60㎡は北欧の高齢者住宅で、単身者用の基本スペース。60㎡あれば、車椅子でも壁にぶつからずにうろうろできるんです。日本人は四畳半のスペースが何でも手が届いて便利でいいとか言うけれど、私は外国の広い家で暮らしてみて、広くて困ることは何もなかった」
――八ヶ岳に念願の山の家をつくられたそうですね。
上野「60㎡ワンボックスの仕事場を2年前につくったの。前から夢だったのね。この夏は1ヶ月、完全にこもってました。私の場合は読む、書くが仕事だから、図書館の一角にいるみたいでほんとにいいです、おひとりさまの時間。月に2回は行きたいですね」

「人様のお世話になるの、避けられない時は避けられないじゃない。だったら避けられないのを前提に老いを考えましょうよと」書いた『おひとりさまの老後』。

インタビューの間、何度も私達取材クルーを笑わせてくださった、ジョークも冴える上野さん。筆者が20代から憧れるフェミニストはお茶目で可愛い方だった。

2年前、念願の60㎡ワンボックスの家を八ヶ岳につくった上野さん。自ら車を運転して往復するという。「介護の送迎サービスならできるわね」

――八ヶ岳に決めた理由は何だったのですか?
上野「私の友人が住んでいたので、通って知ってたから選んだの。それでひと夏、テストリビングをやったの。だから行く前にお友達ができてて、軟着陸した感じ。土地って、場所じゃなくて人なのよね。人間関係って、その人の一番の財産なのよ。その友人がいろいろな人に紹介してくれて、私に自分のベストの財産を見せてくれたのがわかった。友人にね『どういう人がここに住むの?』って聞いたら、『都会で家建てるの諦めた人よね』って(笑)。マンション買う値段で家が建てられるから」
――「ベッドメイトよりテーブルメイト」と書かれている通り、よくいっしょにご飯を食べるなど、八ヶ岳でもお友達といい関係を築いてらっしゃるようですね。
上野「山に行くと私は最年少に近いのね、だからチズコさんチズコさんって、ご飯に呼んでもらえるのよ。都会で人の家に予告せずに行くってないじゃない? でも山ではそれが普通で、時にはウチの外に食べ物が置いてあったりするの、メモもなしに(笑)。何が美味しいって、素人の女の人の手の掛かったお料理ほど美味しいものはない。私はその人たちほど凝ったことはできないから、食材で勝負。いい食材を冷凍庫に入れておいて鴨鍋とかね、お鍋にお招きするの」
――東京の人間関係とは違いますか?
上野「違いますね。皆、新住民同士だから都会人で大人、とっても知的なんだけど、仕事がオフだから暮らしにも気持ちにも余裕があるのね。それに、『○○の』何とかさんっていうのがつかないのよ。相手に踏み込まないの。でもたまには『昔何をしていた』なんて言い出す人がいて、その場では皆ニコニコしてるんだけど、次回からその人は外されてる(笑)」
――「八ヶ岳山麓で新住民用のミニデイケアセンターを開設できたら、というささやかなのぞみを持っている」と書かれていますね。
上野「誰でも最後は在宅で死にたいんですよ。だけど動けなくなった時には、地域のデイケアセンターみたいなところがあるといい。送迎付きでお昼だけ食べに行くとかね。あとは訪問医療と訪問介護ね」
――八ヶ岳を終の棲家に、というイメージでしょうか。
上野「まだ終の棲家とは思ってません(笑)。もう一つの選択肢は京都。学生時代と、無名時代の同志のような友達がいますから。京都は都市機能があって奥行きもある、クオリティオブライフが高いですしね」

建築家に言ってきたのは「作品はいらない、モデルが欲しい」

――文芸春秋の『臨時増刊 おひとりさまマガジン』を責任編集されたそうですね。
上野「その中で、60㎡のマンションを5人の建築家がリフォームするという、『夢の大改造プラン』をやったの。おひとりさまが1千万円で20年住む棲家を確保しましょう、というテーマで、山本理顕さんや隈研吾さんにそれぞれ設計プランを出してもらった。だいたい、住みたい家の選択肢がなさ過ぎる。フロアプランは判で押したように標準世帯向け。おひとりさまには不便でしょうがありません。これは建築家とディベロッパーの怠慢によります。市場に登場するどんなモノのモデルも寿命は10年が限度なのに、住宅は50年変わってない。代替案がなかったからですよ。だから私が建築家に言ってきたのは『作品はいらない。モデルをつくってくれ』ということ」
――確かに建築家はもっと一般の人に向けて、フツーに住みやすくて、ほどほど格好いい、普遍的モデルを提案して欲しいですよね。
上野「家が一生モノの時代は終わって、これからは家もどんどんリサイクルマーケットの中に入ってくる。だからスーパー個性的な家なんかいらないんです。たとえば日本のコーポラティヴハウス(建て主が共同で組合をつくって土地を取得、各住戸をある程度自由設計して建設する集合住宅)はあまりに個性的で、住み手を限定し過ぎているから、出られなくなりますよ。住まいは生活の箱なんだから、住み替えられなくちゃ。住み手が替わらない家って閉塞感があるのね。その意味でコーポラティヴハウスはデッドエンド感がある。住み手が替わるのを前提にしている家は風通しがいいです。私は何度も何度も何度も引っ越したけれど、ただの一度も終の棲家と思ったことがありません」
――確かに個性的でも一戸建てなら壊せますが、集合住宅のコーポラティヴハウスは自分の住戸だけ簡単に壊せないし、売り買いも難しそうですよね。
終の棲家と思ったことがない上野さんに最後に敢えてお聞きしますが、終の棲家のイメージはありますか?
上野「死ぬまでに(メキシコ人建築家、ルイス・)バラガンスタイルの家を建てたいな。外と内の境界が曖昧で、半屋外みたいな家ね」

上野千鶴子さん プロフィール
1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。シカゴ大学人類学部客員研究員、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学大学院客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は女性学、ジェンダー研究。1994年『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受賞。『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』(平凡社)など著書多数。近年は高齢者の介護問題に関わっている。

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