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[第9回]花道家 大久保有加さん

 現代華道の一流派である「草月流」設立時のメンバーだった州村公束さんを祖父に、生け花作家である州村衛香さんをお母様に持つ大久保有加さんは、ライブパフォーマンスやワークショップ、イベントプロデュースなど、既存の生け花の枠を越えた幅広いジャンルで活躍中の花道家です。「環境に対する意識が高まっている今、固定概念を取り払って、植物や自然と人との関わり方を自分なりに解釈して深めていきたい」と語る大久保さんの住まい感とは?オンとオフ両面でお話を伺いました。

草月流は『自己表現する生け花』。自分の内なる声との対話です

—-最初に、草月流についてお聞かせいただけますか。
大久保「生け花には池坊や小原流など、さまざまな流派があるのですが、草月流は型や形式といった規範にこだわらず、自由に個性を尊重した造形的な生け花創造をめざす、比較的新しい流派です。床の間から飛び出して、さまざまな空間の中で植物と人との関係性を習得し、最終的には花を通じて自己表現することをめざしています」

—-生け花というと、約束事が多く難しいイメージがあったのですが、草月流は『自分を表現する生け花』という考え方なんですね。
大久保「その通りです。花をいけるとき、人はさまざまなジャッジを下さなければなりません。余分なものを削ぎ落としていくことは、個人が持つ価値観や美意識、本能的な感覚と向き合う作業です。普段からお仕事などで様々な決断をされている方などは、花をいけると自分の内なる感覚が引き出されてくるとおっしゃいますね」

—-大久保さんは男性向けの生け花のワークショップも催されていらっしゃるのだとか。
どんな感じなんですか。
大久保「『武士の生け花』とでもいうのか、皆さん非常に集中されます。男性の方は個人の価値観がストレートにでるので、大変独創的な作品に仕上がるケースが多いですね」

花が一輪あるだけで「空気が動く」感覚を味わえる

—-大久保さんご自身も、小さな頃から花や植物とかかわりの深い生活をされていたんですか。
大久保「祖父にほめられると嬉しいという単純な理由で(笑)、幼稚園の頃からしていました。
今から思うと、絵やインテリアや食事の盛り付けなど、あらゆる物の空間に対する美意識、『余白の美学』を発見する目を養うきっかけになったと思います」

—-お住まいも、いわゆる昔ながらの日本家屋だったのでしょうか。
大久保「子供の頃の家は床の間も和室もない、洋風の一軒家でした。お庭もあり、花も飾るけれどどこかオブジェ的というか、切り取られた自然という感じで。反対に、山中湖にあった別荘は自然がいっぱい。子供心に自然の中で過ごすのはいいなぁと思っていましたね。その後小学校高学年の時は父方の実家に引っ越したのですが、ここは枯山水や飛び石、囲炉裏がある本格的な平屋の日本家屋。昔ながらの風習や季節感を大切にする祖父母と一緒に暮らす、日本文化に浸った生活も経験しました」

—-現在はどのようなお住まいなんでしょうか。
大久保「今は利便性を優先して、都心のマンションに住んでいます。自分で間取りを変えられない分、白い家具などで部屋をすっきりさせ、大きなフレームに海外のファブリックを入れてインテリアのアクセントにしています。キャンドルも好きでいろいろ揃えています」

—-プライベートではお花をどのように楽しんでいるんでしょうか。
大久保「仕事で花をいける時は、メッセージやテーマを感じ取っていただくための発信手段としての側面があります。プライベートでは花と私だけ。まったく違う気持ちで花と向き合いますね。最近は春色を楽しんで、恋愛運もアップする!?ピンクの花が多いかな(笑)。個人的にハワイがとても好きなので、デンファレやモカラなど南国を感じさせるラン系のお花やグリーンがあると、リラックスできますね」


「固定概念を取り払って、もっとニュートラルに植物や自然との関わり方を伝えたい」と、子どもへの『花育』普及にも努める


グランドプリンスホテル新高輪内のショップ「IKEBANA ATRIUM」。ワークショップのほか、花や花器の販売も


最近注目されはじめている「和バラ」と桜による作品。幾重もの淡い花びらが空気をふるふると揺らす


20代の頃は女性誌のライターもしていた大久保さん。さまざまな経験が今、植物を通じた発信に役立っているという

—-お花が日常にある生活は憧れですが、なかなか最初の一歩が踏み出せない方も多いと思います。マンションでひとり暮らしの方へのアドバイスをいただけますか。
大久保「『気持ち』『時間』『お金』⋯お花は生活に余裕があるかどうかのバロメーターになります。お花を飾ることで、本来の自分のリズムを取り戻すことができるんですね。スイーツを買うような感覚で、500円でお花を一、二輪買うことから始めてみてはどうでしょうか。
湿度と温度が安定している洗面所は、お花の環境としては理想的。一輪だけで、空間が動くような感覚を味わえますし、鏡を見る時にお花が見えると顔の表情も変わりますからね」

—-「空間が動く」とは、おもしろい表現ですね。
大久保「空間を生かしたり動かしていくのは、そこで暮らしている人など、生きているものが持つ『リズム』や『気配』。植物も生きているので、同じことがいえます。見えない『気配』を感じ取るという発想は、日本には昔から親しみのある考え方。建築学的にもきっとリンクしているのではないでしょうか」

暮らしの中に、美意識と価値感を培う行為を取り入れる

—-将来、こんな家で暮らしてみたいという理想はお持ちですか。
大久保「『縁側』は絶対欲しいんです。時間によって移り変わる景色を楽しみたいですね。あとは、珪藻土などの自然素材の壁にずっと憧れています。私がアレルギー体質で、ケミカル的なものが苦手ということもあるんですが」

—-やはり、子供の頃に住んだ日本家屋が記憶に残っているんでしょうか。
大久保「特に日本家屋でなければ、と思っているわけではないんですけれど、『和の美意識』を潜在的に求めているのかもしれません。そうしたものを上手に解釈した私なりの心地よい空間で、植物を育みながら暮らすというのが理想です」

—-具体的に、お手本にしたい家などはあるんですか。
大久保「実は京都にお住まいの漆作家、鈴木睦美先生のお宅に伺った時に、ものすごい衝撃を受けたんです。あまりのすばらしさに言葉がでないくらい。鞍馬山近くの自然に包まれた、縁側から比叡山が借景になる素晴らしい家なんですけれど、室内空間を見て先生の生き方に心から納得したんですね」

—-住まいには、住み手の生き方が反映されますよね。
大久保「本当にそう思います。その家では選び抜かれた欅の板張りのリビングにアンティーク家具が2つだけ。器も古いバカラやラリックのグラス、博物館レベルの紀元前の青銅器や器を普段遣いなさっています。お伺いしたら『僕は1000年後も使える器しか作らない。そのためには普段から本物を目にしたり触れたりして、ありのままを感じることが大切』なのだと⋯。暮らしの中で美意識や価値観を培う行為の大切さを、改めて実感しましたね。それ以来、良いものを吟味して共に暮らそうと思うようになりました」

—-器のように長い時間を経て味わいが深まるものと、花や植物などのように命があってうつろうものと。その両者を併せ持つことが、暮らしの空間や時間に趣や奥行きを与える大きなポイントなのかもしれませんね。
大久保「これからは人と自然の関係性が一層問われる時代になってくると思います。私も植物と共にいけばなを通じて、豊かな時間と空間を持つ意味、文化の尊さなどを多くの人に発信していけたらと思っています」

大久保有加さん プロフィール
草月流を家業とする家に生まれる。幼少より母である州村衛香に師事。展覧会での作品発表をはじめ女性誌での連載、執筆活動、雑誌でのスタイリングやライブパフォーマンスなど、既成概念にとらわれない「IKEBANA」の魅力をさまざまなジャンルで追求している。
IKEBANA ATRIUM http://www.ikebana-atrium.com/
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