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[第15回]根本きこさん

 フードコーディネーターとしてたくさんの著書を持ち、どこかほっとするシンプルで丁寧なレシピが好評の根本きこさん。現在は逗子のカフェと雑貨のお店『coya』をご主人と営むほか、2人のお子さんのお母さんとしても忙しい毎日を過ごしています。今回はほのかに潮の香りが漂う『coya』にお伺いし、住まいと暮らしに対する思いを語っていただきました。

祖父母が住んでいた古い商家が家の原風景に

――逗子で暮らすようになって、どのくらいになりますか?
根本「もう13年になります。出身が栃木県の那須で、東京にも少しの間住んでいたのですが、友人が逗子に住んでいて遊びに来ているうちにすっかり気に入ってしまい、それ以来ずっと逗子に住み続けています」

――逗子のどんなところがよかったのでしょうか。
根本「この辺りはすぐ近くに鎌倉のような観光地や、葉山のような避暑地があるのですが、逗子はその2つに挟まれていて少し田舎っぽいというか(笑)、昔ながらの商店街が充実していたり、普通の生活がしやすいところがいいですね」

――海がすぐ近くにあるせいでしょうか。空も広くて緑も濃くて、のどかな雰囲気の中にも、独特の伸びやかさがあるような気がします。
根本「このお店にもカニがいつの間にか入ってきたりするんですよ(笑)。海へは子どもとよく出かけます。一緒におもしろい形やキレイな色の貝殻を探したり、”なんでこんなものがここに!?”という拾い物を大事に持ち帰ったり…。お店にちょっと飾ったりすることも多いですね」

――子どもの頃はインテリアなどに興味はありましたか?
根本「母が『美しい部屋』というインテリア誌を定期購読していたので、よく一緒に読んでいました。子どもなりに自分の部屋をアレンジしたくて、カラーボックスを買ってペンキを塗ったり。スパタ模様というか、わざと離れたところからペンキの液をパッと飛ばして、ツブツブの模様をつけたり…」

――それは高度なテクニックですね!何か家の原体験というか、小さな頃印象に残っている光景などはありますか?
根本「私が住んでいた家は現代風の普通の家でしたが、近くの両親の実家は父方が炭屋、母方が本屋で、とても古い家でした。子ども心にもどこか懐かしくて落ち着くというか、大好きでよく遊びに行っていました。このお店には、どこかその頃の記憶があるのかもしれません」

古い店を夫婦で改造。手を入れたいところは今もいっぱい

――このお店も、古いお寿司屋さんをリフォームしてつくられたそうですね。オープンしたのはいつ頃ですか。
根本「6年前です。近くに住んでいたのでこの辺りは散歩コースだったのですが、ある日見慣れたお寿司屋さんが閉店して貸店舗になっていて…。主人とほとんど即決のように借りることを決めて、カフェをつくろうということになったんです」

――リフォームはほとんどご夫婦でされたのだとか。大変じゃなかったですか?
根本「もともと築100年の建物ですごく古いこともあり、修繕に制約がほとんどなかったんです。なので、知人の大工さんに頼んで、私たちではできない基礎廻りを直してもらって、それからはコツコツと1年半くらいかけて壁を抜いたり、畳の小上がりをフローリングに張り替えたりして改造していきました」

――今では作るのも難しいといわれる波打った古いガラス窓や、経年変化で味わいを増した梁、レトロな薄いブルーのタイル壁はそのまま残してありますね。そこに白い壁や手作りの棚、無垢の木でつくられた家具などが合わさって、とてもいい雰囲気です。
根本「元がお寿司屋さんだったので、全体的に『和風』然としていたのですが、建具は雰囲気があったので、できるだけ残すようにしました。タイル壁は、キッチン付近の砂壁を掻き落としたらその下から出てきたのですが、いい感じだったのでそのままに (笑)。その他の壁は砂壁を落として珪藻土を塗りました。大家さんにも『よくここまでやったわね~』と感心されて…(笑)」

――インテリアの趣味などで夫婦の意見が分かれることはないんですか?
根本「お互い好みは似ているので、暗黙の了解のような感じです。主人は日曜大工が得意なので、たいてい私が言いだしっぺになって、いつもどこかしらいじってもらっています。私が『あの壁を抜きたい』というと『ええ~~っ!?』と一応言うのですが、しばらくして気が付くと、作業の準備をしたりしています (笑)」



(左)三苫修、中本純也、角田淳、村上孝仁など、素朴だけど表情豊かな若手作家の食器たち(右上)縁が欠けた食器は定期的に金継ぎをほどこして大切に使う(右下)海で拾った貝殻や石も立派なオブジェに


(左上)古いガラスの窓に珪藻土の壁がしっくりなじむ (左下)建具はほとんどが以前のまま。古木の棚はご主人が取りつけた(右上)砂壁を落としたらでてきたタイル。淡いブルーがかわいらしい雰囲気(右下)元がお寿司屋さんとは思えない「coya」外観


「なるべく自分たちでする」が生活の基本

――『coya』のつくり、はいわゆる「鰻の寝床」ですね。間口が狭くて奥行きがある。入るとすぐカフェで、その奥に床面が1m位高くなった雑貨のコーナー。シンプルで温もり感のある和食器や手織りのラグがあって、まるで根本さんの家のリビングにおじゃましているみたいです。
根本「個人的にも素朴な雰囲気の和食器が好きで、ここにある物はほとんど家でも使っています。食器はちょっと欠けたりしても捨てたりしないで”金継ぎ” (きんつぎ=陶器の欠けや割れのできた箇所を漆で接着し、その割れに沿って金を装飾していく伝統的な修理方法) をすれば、長く使えますよ。こんなふうに(と金継ぎ中の食器類を見せてもらう)、うちでは工程ごとに分けて定期的に修理しています」

――金継ぎは職人の仕事かと思っていましたが、自分でもできるんですね。内装などの表層的なものだけでなく、根本さんのライフスタイルそのものに、古き良き日本の丁寧さを感じます。
根本「フードコーディネーターの仕事を始める前、3カ月くらいベトナムやタイに行っていたのですが、ショッピングなどはほとんどしないで、人々の生活ばかり見ていました。路地裏で炭をおこして肉や魚を焼いていたり、スーパーではなく市場で買い物をして、素朴なつくりの陶器やグラスを大切に使って、食器洗いの水も大切に使って…昔の日本を見ているみたいでした。確かに不便かもしれませんが、暮らしと人とものの距離が近くて、いいなぁと…。今はもうだいぶ近代化してしまったようですが」

――日本ではまた、ものを大切にして丁寧に暮らすライフスタイルが見直され始めているようです。現代はエネルギーや食料問題もありますし。
根本「”身のまわりのことは、なるべく自分たちでする”ことを大切にしたいですね。自分たちですると、ものができる過程や構造がわかるというメリットもあるし、何より楽しいです。私がアナログ人間なのかもしれませんが(笑)」

――「自分でする」「中身を知る」ということは、これから生活していく上で大きなポイントのような気がします。
根本「丁寧に作っている人の気持ちや気合い、魂というのは、きちんと蓄積されていくような気がします。例えば食材でも、無農薬のお米を天然の塩でむすんで、昔ながらの方法でつくられた海苔で食べると、どんなごちそうよりおいしい。家についても同じようなことが言えるような気がします」




根本きこさん プロフィール
フードコーディネーター。シンプルながら、どこか懐かしく丁寧な味わいのレシピが好評。神奈川県逗子市でカフェ「coya」をご主人と営む二児の母でもある。著書に『うちの週末ごはん』(小学館)、『野菜が主役』(講談社)、『台所目録』(地球丸)、『mama book 子どもと暮らす』(メディアファクトリー)、「酒の肴、おいしい愉しみ」(集英社)など。
『coya』オフィシャルサイト
http://coya.jp/
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