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インタビュー 家について話そう
「家づくりは、あらゆる希望と現実を引っ張り出しては整理していく作業でした」[第6回]書道家 武田双雲さん 取材・文 田中やすみ 撮影 佐々木信行


玄関先にはパフォーマンスの時などに使用する特注の筆が。筆は全部で200本くらいあるのだとか


いつのまにか相手の心を開かせる、柔らかなものごし。打ち合わせで来た初対面の人がいきなり人生相談することも。

 とにかく明るい。そして好奇心旺盛、人間大好き。今年のNHK大河ドラマ「天地人」の題字を書くなど、書道家としての活躍は誰もが知る武田双雲さん。圧倒的な生命力を感じさせる作品の背景には、間違いなくご本人のキャラクターが影響しているのでは…?と思うほどの抱腹絶倒インタビューになりました。家の話も、それ以外の話も面白い、武田さんワールドをお楽しみください。

仕事、家族、生活空間。大きな転換期が一度にやってきた

――現在のお住まいは、建てられてどのくらい経つんですか?
武田「建てて3年になります。上の子どもが生まれるタイミングでした」

――以前はとても古い和風の家に住んでいたとか。
武田「ええ、賃貸だったのですが、見たとたん”ああ、ここに住むんだな”とイメージできたくらいのひと目惚れでした。古い家なので利便性という点ではサイアクだったんですよ(笑)。冬はとにかく寒いし、虫はいっぱいいるし…。でも、目に見えない趣きや心地よさ、開放感がありましたね。自然体でいられる空間というか。でも家主さんの都合でその家を取り壊すことになって、さぁ、どうしようと(笑)」

――それでいよいよご自分の家を建てることになったんですね。こうしたい、というイメージはありましたか。
武田「すごく戸惑いました。というのも、『あれ、自分はどんな家に住みたいんだっけ?』って改めて考え出しちゃったんですね。もともとあるものに対しては判断できるんですが…。実は、自分には家に対するこだわりというものがまるで無い!ということに、一から建てる段になって初めて気付いたわけなんです(笑)。前の家がすごく良かったから和風の家が好きな気もするし、シンプルモダンな家もいいなと思うし、案外ヨーロピアン調もイケるかも(笑)、…なんて考え出したら本当にわからなくなって」

――「家を建てることは自分探しだ」という方は多いですね。何を心地よいと感じるのか、これからどう生きていこうとしているのか、改めて考えさせられるんですよね。
武田「本当にそうです。自分の生き方や志向というものを哲学的に考えたり、人生設計を考えることにもなりましたね。あらゆる希望と現実を引っ張り出しては整理していく作業でした。お陰で夫婦の会話が随分増えました」

――家を建てることが人生設計を見つめ直すきっかけになったと。
武田「ちょうど子どもが生まれて”夫婦”から”家族”になる頃でしたしね。仕事もその頃から忙しくなり出して、そのうえ家を建てて生活空間も変える…よくよく考えるとすごいですよね。人生で最も大きな出来事がいっぺんに起きましたから。まさに転換期という感じでした」

 

――デザイン面では建築家の方に何かお願いしたんですか。
武田「デザインにはこだわりがないので夫婦で『どうする?』『どうする?』って言い合って、『じゃ、プロにお任せしよう!』と(笑)ただ、教室にはたくさんの方が来られるので、”シンプルだけど人がリラックスできる空間”というリクエストは出しました。1階が書道教室で2階が生活スペースなんですが、この教室にしている部屋も障子や天井の梁が和風のイメージを残しつつ、全体的に明るいイメージで気持ちいいですね。2階はほとんど仕切りがありません。一応引き戸の建具はあるんですが、今日みたいに寒くて暖房をつける時以外は、ほとんど開けっ放しですね」

――全体的に和の感性を取り入れたシンプルで若々しいイメージですね。
武田「建築家としてのこだわりやデザインの意図というのは当然あると思うんですが、それを住む人に押し付けないというか、変に意識させないのはさすがだと思います」

――設備面で奥様から “こうしたいんだけど”といった話はなかったんですか。
武田「それがほとんどなくて(笑)。例えばショールームにいっても、今のキッチンってすごく進化していて、ケチのつけようがないというか…すごいですよね。二人でひたすら感心して『もうこれで十分です…』という感じでした」

何でも楽しむ「いきあたりバッチリ」が幸せを招く

――お話を聞いていると、武田さんの欲のなさというか、幸せに対する感度の高さに驚きます。
武田「何でもおもしろがる性格なんですよ。例えば、落ち葉がただ一枚落ちるのを見ては『なんてキレイなんだ!』と感動してしまう。昔から不満を持つとか、斜に構えるということが全然できなくて、自然に前向きになってしまうんです。仕事などでいろんな方にお会いする度に『すごいなぁ!』と感心しっぱなしです。そんな性格なので、若い頃はやや周囲から浮いている感がありましたが(笑)、最近は自称『天然褒め上手』なんだと。こういう人間も必要なのかなと、最近は特に思っています」

――本当に、一緒にいるとこちらまで前向きな気持ちになってきます!日常生活の中でも、色々なことに感動したりおもしろがったりしていそうですね。
武田「家で仕事をしているので子どもといる時間も長いんですが、子どもって本当におもしろいですよね。最高におもしろい。上の子が3歳で、今ちょっとした反抗期なんですね。お風呂に入ろうと誘うと、必ず拒否。それなら…と子どもの好きなジュースを持って湯船に入って、わざと聞こえるように『あぁ~うめーな~!最高だな~!』なんて叫んでいると、裸ですっ飛んでくるし(笑)」

――何でも楽しもうという気持ちが、さらなる幸せを運んでくるという感じですね。
武田「そういうことを『いきあたりバッチリ』と言ってるんです(笑)。今の自分を振り返っても、人とのご縁やつながりを大切にして、その場その場で目の前にあることに夢中になっているうちに、ここに至るという感じです。今もファンの方を始め色々な方に支えられていると思いますし、これからも書道だけでなくいろんな場所で、自分が持っているものを少しでもお返ししていけたらと思いますね」

武田双雲さん プロフィール
1975年、熊本県生まれ。3歳より書家である母、武田双葉に師事し書の道に入る。東京理科大学を卒業後、NTTに約3年間勤務したのち退社、書道家として独立。湘南を基盤に創作活動を続ける。独自の世界観と斬新な創作活動で注目され、数多くのイベントで書道パフォーマンスやアーティストとのコラボレートでも知られる。映画「北の零年」テレビドラマ「けものみち」「天地人」などの題字も手掛ける。日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビやラジオでも活躍中。著書に、作品集「たのしか」、言葉集「ひらく言葉」「しょぼん(ひらがな)」「書本(漢字)」、「カルボナーラばかり注文するな」など。
公式ウェブサイトhttp://www.souun.net/

職人を見て「家って自分達で建てられるんだ」とわかった

――家を建てよう、と決めてからはどのような経緯をたどったんですか。
武田「最初は普通に展示場などを見て回りました。あとはデザイナーズの住宅をネットで見てみたり…。ただ、新居には書道教室のスペースもつくらなければいけなかったので、どうしようかなと思っていて…そうしているうちに、あるご縁で建築家や職人のいるNPOと知り合ったんです」

――どんなNPOなんですか。
武田「『職人の森』という、職人と建築家やアーティストが協働する環境系のNPOです。そこで芸術監督をさせて頂いた縁で、小田原 健さんという建築家の方に設計をお願いすることになりました」

――最初から「建築家に頼もう」ということではなかったんですね。
武田「ええ。家というのは、普通は大手のメーカーに頼んだり、建売を買う物だと思ってましたから。ほら、言ったじゃないですか、そんなにこだわりがないんだって(笑)。ほどよく清潔で適度にモノがあって、雨露しのければいいという…。でも今回のことで、家って自分達で建てられるんだとわかったのは新しい発見でした。依頼したのは工務店でしたが、実際に現場に来られるのは職人集団で。だんだんと親しくなっていったら、ある日突然『床下に(乾燥剤になる)炭を入れといたから!』って言われたり、そんな話それまで全然出てなかったのに(笑)。大きな会社だと、契約通りにつくらないといけない、みたいなところがあるじゃないですか。でもこうしたつくり方だと人と人のふれあいがあるというか、つくる人の顔が見える形で家を建てられたのは良かったなと思いましたね」

 


家の中の至る所に自作の書が。引き戸もこの通り、アーティスティックなインテリアになる。

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