北側の開口部をフルオープンすると、視界が大きく開け、眼下に緑豊かな住宅地が展開される。7年前、自邸建築のための土地を探すにあたって、手塚貴晴さんと手塚由比さんは眺望を重視したという。
「それまで眺めのいい家を設計してきましたからね。自分たちでもその気持ちよさを味わいたかったんです」と由比さんは笑う。
1階は親世帯で、2階が手塚さん夫妻の生活する子世帯スペース。LDKから寝室、洗面・浴室まで間仕切りのほとんどないワンルームだ。「細かく分けるのではなく、室内は一体に。屋外へも連続させて、広々と住む」という設計上の基本姿勢をそのまま貫いた。大開口と薪ストーブ、オンドル式床暖房、南北に設けたバルコニーといった手塚さんの設計ではおなじみの手法も取り入れられている。「自分の家だから」と特別なことをするのではなく、自分たちが「いい」と思って普段実践していることをニュートラルにまとめてみせたのだ。
竣工は2002年。生後1か月の長女を抱えての引っ越しはさぞ大変だったことだろう。今では長女は7歳、4歳になる長男も加わった。「子どもができるとこんなにモノが増えるものか、とあらためて実感しました。本来、人が暮らしていくのに必要なモノってみなさんが思っているよりもずっと少ないものなのですが、子どもの成長過程では一時的に増えてしまいますね」。
北側に傾斜した敷地であるため、屋根の断面をのこぎりの歯のように凹凸のある形状とし、その間に高窓を設けることで、南からの自然光を室内にたっぷり取り込んだ。白く塗られた天井と内壁に明るさが満ち、南北にオープンな住空間にすっきりと心地よい雰囲気が漂う。
棚にぎっしりと並べられた絵本から専門書、おもちゃやCD、壁に貼られた子どもたちの描いた絵に至るまで、露わになっている生活感が必要以上に雑然とすることなく、家族の温もりとして好ましく感じられるのは、暮らしの場の骨格が整然と構築されているからなのだろう。
大テーブルを中心として南北に広がる室内。14人掛けのテーブルは、家族それぞれに勉強や仕事などお互いに気にせず行うことができる懐の深さがある。
LDKの南側を見たところ。屋根に設けた段差の高窓から南の光を取り入れている。南側には寝室のスペース、その隣にはトイレと浴室が配置された。
浴室、洗面室、トイレも一体に。普段も引き戸を開け放しており、風が吹き抜けて湿気がたまることがない。以前は浴室はカーテンで仕切られていたが「邪魔なので取ってしまいました」(由比さん)。
夏には南北の窓を開放して、アウトドアの開放感を満喫。冬は床下に暖気を通して部屋全体を暖めるオンドル式床暖房と薪ストーブが活躍して、Tシャツ1枚でも快適に。
大きな口を開けて内も外もおおらかに飲み込む「のこぎり屋根の家」。10年もして子どもたちが成長していけば、また内部の様相も変化していくはずだ。「先日、長女がソファの横に陣取って自分の絵本を持ち込んでいたんです。いずれ、寝室に使っているスペースの一部に彼女の場所を用意してあげないといけないでしょうね」(由比さん)。
それまでは家族4人でひとつの寝室。LDKの真ん中に据えた長さ4mの大テーブルで、食事して勉強してお茶を飲んで仕事して。ワンフロア40畳の大空間は「部屋名」に束縛されることなく、家族が自由に住みこなしている。
そんなのびやかさを感じたら、子どもたちもじっとはしていられない。何かと言えば大テーブルの周囲をぐるぐると走り回っているという。「”お外へご飯食べに行こうか”って言っても、子どもたちは”おうちがいい”って。たまには外食を楽しんでみたいんですけど」と由比さんは苦笑する。
高台にある手塚邸。夫妻は子どもたちとともに、自分たちの設計の心地よさを日々実感し、その間違いの無さを深めながら暮らしている。
- 手塚貴晴さんプロフィール
1964年東京生まれ。1987年武蔵工業大学建築学科卒業後、ペンシルバニア大学大学院を修了。英・ロンドンのR・ロジャース・パートナーシップに勤務。1994年に独立し、由比さんと共同で設計事務所を設立。
手塚由比さんプロフィール
1969年神奈川生まれ。1992年武蔵工業大学建築学科卒業後、貴晴さんと結婚し、1992~93年ロンドン大学バートレット校に留学。1994年に独立し、貴晴さんと共同で設計事務所を設立。
手塚建築研究所
東京都世田谷区等々力1-19-9-3F TEL03-3703-7056
http://www.tezuka-arch.com/japanese/index.html
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