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建築家の自邸を訪ねて ほどよく分節化されたスペースが心地いい 小泉雅生 邸

 横浜市は起伏の多い土地である。東急沿線の駅を降り、意外ときつい丘への坂道に汗を拭きながら、「建築家は坂の上に家を建てる人が多い・・・」などと思って辺りを見回すと、頂上近くに小泉雅生さんの家があった。屋根を緑化しているせいもあり、周囲の傾斜になじむように建っている。

 長いアプローチを通って玄関を入ると、1階のリビング空間が広がっている。フラットな床や回遊できる間取り、そしてアプローチのスロープも、夫人の京子さんのお母さんが車椅子で同居できるようにと意図されたデザイン。その広いリビングは幾つかの坪庭的空間をもち、室内にいても屋外と自然につながる感じがある。

 お母さんは暫く同居の後、残念ながら他界されたが、車椅子で1人で外へも出るほど、この家では自由に動けていたようだ。
「自力で動ける範囲が狭いと、動いても面白くないから、だんだん動かなくなっちゃうんです。身の周りに必要なモノを置いて、そこでじっとしてる、『寝たきり』ならぬ『居たきり』みたいになってしまう」(小泉さん)
 そのお母さんのスペースだった空間は、今は絵本作家の京子さんのアトリエとして使われている。

 2階は、緑化した1階の屋根を庭として見るかたちで、ダイニングキッチンと主寝室がレイアウトされている。このフロアは東側の道路レベルと同じ高さなので、ダイニングから庭を挟んで主寝室を見ると、広い敷地に建つ小さな平屋と離れのような感覚で、面白い。

 この屋根の庭、緑化したおかげで夏はかなり表面温度が抑えられるという。サーモカメラで測定したところ、アスファルトが60℃あった日でウッドデッキが48℃、緑化屋根の芝生は36℃だったそうだ。同様に室内への照り返しの熱も抑えられるので、2階もそれほど暑くならずにすむ。


1階リビングから玄関方向を見る。フロアレベルを下げてタイルを貼った「内庭」には水を張ることも考えたというが、池のようにも見える。階段上に見えているのがダイニングキッチン。




2階のダイニングキッチンからは、芝生で緑化した屋根庭を挟んで主寝室が見える。右手の東側道路が上がっているからだが、この位置からだと平屋のように感じる。

 「普通の屋根緑化と違って、見えるところが緑化されているので快適な反面、手入れしないと気になりますね。住んで5年目ですが、最初は肥料と水をやり過ぎて芝刈りが大変で(笑)。だんだんコツがわかってきて、去年は一度も刈らずにすみました」と小泉さんが言えば、「主人が出勤前に雑草を抜いて行ってくれるんですよ」と京子さん。

 その芝生庭を望む独立したダイニングキッチンはちょうどいい大きさで、とてもコージィな場所になっている。小泉さんはここを、イート・イン・キッチンと呼んでいた。

 「食事する場を日本ではリビングと一緒につくるけれど、食事の所作はそもそもプライベートな行為。キッチンも、冷蔵庫をはじめ必要に迫られて置くモノがたくさんあるから、食事とつくる場所は、くつろぎのスペース(リビング)と分けた方が理に叶っていると思う。よく『食事しながらテレビを見るな』と言いますが、食事とくつろぎをごっちゃにするから起きることで、それを分けて、テレビはリビングに置けば解決します。欧米のお宅ってそうなってますよね。招かれると、食事の後にリビングに移動してくつろぐ。日本だと一室空間(ワンルーム的つくり)が好まれるけれど、家の中に幾つかのコーナーがあった方が生活しやすいと思います」(小泉さん)

 私もこの点、小泉さんに全面的に共感した。数々の欧米のお宅を取材したが、シングル用のアパートメントは別として、リビングからキッチンが丸見えの住宅は記憶にない。その代わり、キッチンの中に小さなファミリーダイニングがあって、日常の食事はそこでするのだが、各家庭なりのこぢんまりしたキッチン空間が何とも温かく心地よさそうだったのを覚えている。小泉邸のダイニングキッチンでも、同様の心地よさが感じられた。

 3人のお子さん達が小さい頃は、「それぞれが友達を連れて来てよく集まっていたので、子どもが合計15人とか20人、学童保育状態(笑)。適度に散らばって遊んでいた」そう。
 なるほど、回遊できるリビングあり、ウッドデッキあり、屋根の庭あり。全体がつながっていながらも、ちょっと独立しているコーナーが幾つか存在する家だから、誰でもどこかに自分の快適な居場所を見つけられるのかもしれない。

 車椅子でも自由に動き回れて、家族が毎日の「集まって」「離れて」をスムースに繰り返せる家。小泉邸の空間構成や屋根緑化の手法に、高齢化や温暖化問題に直面するこれからの日本に求められる、より成熟した住宅のあり方を考えさせられた。

小泉雅生さんプロフィール
1963年生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。同大学院在学中に株式会社シーラカンス・一級建築士事務所設立。1998年株式会社シーラカンス・アンド・アソシエイツ(C+A)に改組、代表取締役。2005年有限会社小泉アトリエ設立。首都大学東京都市環境科学研究科建築学専攻准教授。

小泉アトリエ 神奈川県横浜市中区本町5-49本町ビル503
TEL045-663-7457  http://www.k-atl.com/
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