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建築家の自邸を訪ねて 大家族主義、同居型の住まいがいい 黒木実 邸


廊下からリビングに向かって。黒木さんの建築にはこうした小窓がよく採用されている。子供が顔を出したり、趣味のモノを飾ったりして楽しい。

 私が初めて会った「生身の建築家」が、黒木実さんだった。
 20年ほど前のある日。当時勤めていた会社で配属された住宅雑誌『モダンリビング』の撮影で最初に伺ったのが、黒木さん設計の住宅だったのだ。
 写真家の車で住宅の近くまで来ると、玄関の前で「こっちです」と合図してくれていた黒木さんは笑顔が素敵で、「建築家って何てカッコイイんだろう!」と感動したのを昨日のことのように覚えている。

 住宅そのものも衝撃的だった。これまでの生活体験で、普通の木造住宅や団地しか見てこなかった私は、建築家が設計した「一点もの」の住宅を見るのも初めて。そこには、自分の常識の範疇を超えた豊かな空間があった。
 豊かな空間、などという表現すら当時は思いつかなかった。正直な印象は、「何だ何だ、この不思議な家?」という感じで、表す言葉を知らなかった。
 思えばあれから20年、既成でないオリジナル空間と、つくり手である良心的で技能に長けた建築家に今も魅了され続けている私の半生のきっかけをつくってくれたのは、黒木実さんだと言っても間違いではないだろう。


吹抜けのリビング上部に浮かぶようにつくられた2階ホールを見る。家の中にいろいろなスペースがあって変化に富んでいる。


ダイニングからリビング方向を見る。リビングは壁でコーナーをつくった中にソファをレイアウト。床はコルクタイルだが、ダイニングとキッチンの一部に大理石を敷いているので、「よく食器は割れます」(笑)とのこと。

 今回ご紹介するのは、そんな黒木さんのご自邸である。建って間もなくの頃私もおじゃましたが、築18年になるという。

「下の子が小学校1年生だったのが、大学を卒業しましたからね。二世帯住宅ですが、その間に家内の両親が亡くなり、リフォームを2回しました。砂利を敷いて池をつくって、雨水を地面に滲み込ませる自然浸透にしたり、樋から雨水を溜めるタンクを設置して1階のトイレの排水を賄ったり、自然の力を使おうという試みもだいたいうまくいきました。娘のお友達がよく泊まっていったり、今は私達夫婦のマージャン友達がよく来たりするのも、吹抜けのひろびろとした空間が気持ちいいからかな。そう考えると、18年間のこの家に、ぎりぎりの合格点はあげられるかな」(黒木さん)

 構造的には問題ないとはいえ、18年前と今とでは材料の性能度にも差があり、黒木さん自身の考え方も変わってきているため、3回目のリフォームを構想中という。

「周りに家が建ってきたので、2階にリビング、1階を個室にしようと。うちは娘2人だから、結婚して一緒に住むなら『二世帯住宅じゃなく、同居型がいいんじゃない』と言おうと思ってます。僕自身、家内の両親との二世帯住宅を経験したから、個室さえしっかりしてれば、キッチンもお風呂も一つでもいいかなと。僕は基本的に、人と一緒にご飯つくったり食べたりするのが好きなんですね。朝起きたら誰かがキッチンにいて、それぞれ勝手にパン焼いて食べてる、みたいな家族関係がいいよねと。それはもしかしてお婿さんと同居する場合だからであって、お嫁さんがくるのとでは違うかもしれないから、組合せによって考えてあげなきゃいけないけれど」(黒木さん)

 でも、「それを乗り越えて、大家族主義、同居型がいいなあと」思うそうだ。

「義母が入院して亡くなり、一人になった義父とは、僕の世帯で一緒に食事するようにしたんです。義父があまりこちらの生活に気を使わないように配慮しながら。家内にとっては、食事の面倒は何かと大変だけど、皆で食べる方が娘達の教育にもよいのではないかと思いました。食事の時間は、いろいろな話題を皆で共有できます。家庭の中の空気とか小さな人間関係は、皆が寛ぐ食事の場をきっかけにすると、一番自然でよいムードでつくっていけると思います」(黒木さん)

 師匠である東孝光さんの事務所から独立して31年。350軒余りの住宅を設計し、自邸をつくって18年住んだ黒木さんだから言えることは沢山あるだろう。
「建築家は自邸をつくって学ぶべきことがあるから、設計を頼むなら自邸を建てた建築家に頼んだ方がいいかも(笑)」とも。

「最近の若いクライアントは予算の厳しい人も多いんですが、31年の経験から、長い目で見るとここだけはコストを削らない方がいいよ、という部分は妥協できないんですね。30年もやってると、設計した家を息子さんが引き継いで、リフォームを頼みに来てくれるようになる。空間や構造は30年経ってももつけれど、家族の変化に対応できるようにという意味では、リフォームがしやすい木造在来工法でやってきたのは間違いじゃなかったのかなと思います」(黒木さん)

 変化に対応できる、フレキシブルという面では畳の間が襖でつながる昔の日本の家、田の字型プランは素晴らしかったのだろう。

「僕は幼児体験で、瓦屋根に平屋建ての畳敷き、縁側があって深井戸には西瓜が冷やしてあって、という家に住んだんですね。庭には柿といちじくとざくろの木があって、前の道と庭と縁側と室内がゆるくつながっている――そういう家で育ったから、今でも都市の中でありながら農村型のつながりをもつ家のあり方がいいと思っている。家の周りに高い塀をめぐらせて、自分達だけが見える中庭がある大名屋敷みたいな家じゃなくて(笑)、道を歩いていてちょっと垣間見えるような庭のある家が、社会に対して親切だなと思ってます」(黒木さん)

黒木実さん プロフィール
1948年千葉県生まれ。日本大学短期大学工科建築学科卒業。千葉県柏市役所、東孝光建築研究所を経て1977年黒木実建築研究室設立。千葉県建築文化賞他受賞多数。一級建築士、日本建築家協会会員、世田谷建築家倶楽部会員、千倉まちづくり倶楽部代表、JIA世田谷地域会事務局長。
黒木実建築研究室 東京都世田谷区宮坂3-14-15イーストウイング104
Tel:03-3439-4190 http://homepage2.nifty.com/skyland/




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