2015年07月08日更新
「情報の囲い込み」とは?
マンションの売却を専任媒介契約または専属専任媒介契約で依頼すれば、仲介会社は「レインズ」と呼ばれる不動産会社間の情報交換システムへ物件情報を登録することが義務付けられています。その情報をもとに他の仲介会社も購入希望者へ物件を紹介するのですが、それを妨げるのが「情報の囲い込み」であり、ルールを逸脱した不正な行為です。
■なぜ「情報の囲い込み」が行われるのか
売却の依頼を受けた仲介会社(A社とします)が物件情報をレインズに登録し、その情報を得た他の仲介会社(B社とします)が買主を見つけて売買契約が成立すれば、A社は売主から、B社は買主からそれぞれ仲介手数料をいただきます。しかし、A社が自ら買主を見つければ、A社は売主と買主の両方から仲介手数料を得られます。いわゆる「両手取引」であり、1つの契約で2倍の仲介手数料を稼ぐことができるのです。
もちろん、A社が誠実に営業努力を重ね、その結果として両手取引になったのであれば問題はないでしょう。ところが、両手取引を目指すあまりに物件情報を適切に開示しないこともあるのです。このような行為を指して「囲い込み」と呼んでいます。
情報の囲い込み手段はいろいろありますが、いちばん多いのはレインズを見て問い合わせをしてきた他の仲介会社に対して、「売り止め」(商談中、契約交渉中)や「契約予定」など、虚偽の理由で紹介をしないケースでしょう。
レインズを運営する全国の不動産流通機構は、2013年から2014年にかけて「囲い込みの禁止規定」を設けましたが、当事者が言わない限り明確な証拠を掴めないのが囲い込み問題の難しいところです。
仲介会社が情報の囲い込みをしても、売主が希望する価格や条件で契約をまとめてくれれば、売主にとってとくに不都合はありません。しかし、情報の囲い込みをすることによって売却の間口が狭まり、契約の機会を逸したり、不本意な価格に下げざるを得なかったりする事態が多く起きるのです。買主にとっても適切な情報が得られないことになりますから、囲い込みは不動産の流通を阻害する行為だといえるでしょう。
さらに、高い価格で他社の買主と契約を結ぶよりも、安い価格で「両手取引」にするほうが仲介会社にとってメリットが大きいことも理解しておくべきです。情報の囲い込みをするような仲介会社は、少しでも高く売るのではなく、少しでも安く自社の顧客に買わせようとする場合もあるのです。
■情報の囲い込みを防ぐためにはどうするべき?
物件情報が適切に開示されていれば、売却を依頼したA社だけでなく、その情報を得たB社やC社も購入希望者を伴って見学に来ます。もし、購入希望者を連れて来るのがいつもA社ばかりという状況であれば、情報の囲い込みが行われている可能性も否定できません。ただし、それだけA社ががんばって営業をしているという場合もあるため、初めから疑うのではなく、担当者からよく話を聞いてみるようにしましょう。
また、すべての仲介会社が囲い込みをするわけではありません。自社が抱える購入見込み客の数が少ない、あるいは集客力がそれほど強くないような仲介会社では、囲い込みをすることで自らの収益機会を失う結果になりかねないのです。そのため、情報の囲い込みが行われやすいのはある程度の規模以上の仲介会社だといえます。
初めに売却の依頼をするときに、「御社では囲い込みなんてしませんよね」と一言添えておくのもよいでしょう。仲介会社側にも「囲い込みがバレたら大変」という意識はあるはずですから、売主自身がそれを注視しているという態度を見せれば、それなりの抑止効果も生まれるでしょう。
なお、レインズへの登録状態などを売主が確認できるように、新しいシステムの導入なども検討されています。これが稼働したときには、売主の立場から「情報の囲い込み」がされていないかを定期的にチェックしていくことも大切です。
イメージフォト:再開発が進む「二子玉川」駅南(2013年2月撮影)
【マンション売却のコツ】
<第1回>マンションを売却する前に知っておきたい基礎知識
<第2回>売却における専任媒介と一般媒介の違いは何か
<第3回>マンションの査定を受けるときのポイント
<第4回>売却を依頼する仲介会社の選び方
<第5回>マンション売却にかかる費用と税金
<第6回>中古マンション市況の調べ方
<第7回>「情報の囲い込み」とは?
<第8回>「ホームインスペクター(住宅診断士)」とは?
- 不動産コンサルタント
平野雅之 リックスブレイン代表。東京都、神奈川県を中心に20年以上にわたって不動産売買の媒介業務に携わる。取引実務に精通する専門家として一般消費者向けの相談業務や現実に即した情報発信をしている。オールアバウト「不動産売却・査定」、「不動産売買の法律・制度」など幅広いテーマでガイドを務める。