1. 家の時間トップ
  2. TOP TOPICS
  3. ホーム&ライフスタイルトレンドレポート
  4. マンションの建て替え実施は、「もっと早いほうがよかった」が43%

>バックナンバー

マンション建て替え「もっと早いほうがよかった」43%

“旧耐震”マンションの動向に注目

 津波や原発事故など甚大な二次災害をもたらした東北太平洋沖地震は、震源地から数百キロ離れた東京にも大小さまざまな爪痕を残しました。

 まずは、右の画像をご覧ください。これは千代田区にあるビルの外壁と地面に接する足元を撮影したものです。このようなクラックは構造的にダメージを与える損傷ではありません。しかしながら、部分的にでも亀裂の入った外壁タイルは、何かの拍子に落下してしまうかもしれず危険です。万一そのようなことが起こった場合、建物の前を歩く通行人にケガを負わせてしまう可能性もあります。したがって、ビルオーナーは自らの責任で修繕を行う義務を負わなければなりません。現にこのビルは震災から数箇月後、外壁をすべて取り払い、全面改修を施しました。

 この度の大地震を経て、東京都では「東京緊急対策2011」と題したレポートを発表しています。これは、想定をはるかに超えた甚大な被害が起きた現実を踏まえ、防災のあり方をあらためて見つめ直す宣言のような内容でもあります。「東京湾に津波はこないのか」「液状化対策は万全か」「超高層ビルに制振補強は必要か」そうした具体的なリスクと対策が列記されています。そして、かねてより問題視されていた「マンションの耐震化」もあらためて課題として取り上げられています。

 いま、日本では570万戸以上のマンションが現存し、そのうち1981年の建築基準法改正以前に建てられた、いわゆる「旧耐震」と呼ばれるマンションが100万戸にも達するといわれています。そもそもマンションは都市との相性が良く、都心部から普及していった住居形態です。したがって耐震基準の満たない古いマンションは東京23区に集中していると言っても過言ではありません。だからこそ東京都では、遅々として進まない耐震補強の問題に正面から取り組まねばならないとしています。

 老朽化の進んだマンションの対処法としては、「修繕」や「改修」、それに抜本的に問題を解決する「建て替え」が選択肢として挙げられます。なかでも耐震化だけでなく、設備の刷新、ライフスタイルにマッチしていない面積や間取りなど山積する問題や悩みを一気に解決できる手法が建て替えです。以前はネックになっていた手続き上のさまざまなハードルも「マンション建替え円滑化法」(2002年)の施行などにより相当軽減されたともいわれています。

 デベロッパーもこの建て替え市場に着目する企業が近年増加してきましたが、なかでも先んじて事業領域として設定し、すでに多数の実績を誇る代表的な企業が「旭化成ホームズ」です。同社は現時点で10棟のプロジェクト(着工ベース)と2つの建て替え組合に参画。さらに、今年4月には「マンション建替え研究所」を立ち上げ、マンション分譲は建て替え案件のみを事業対象にすると表明しました。したがって、用地を買収してマンションを建設・分譲する他のデベロッパーとは一線を画する存在ともいえるでしょう。

 先日、同研究所はマンション建て替えに関する興味深い調査データを公表しました。これは自社の建て替えマンション7棟を対象に、248件の所有者から直接アンケートをとったもの。マンションの管理組合を対象とした調査はこれまでにもさまざまな機関が実施していましたが、個々の所有者から建て替えに関する意識調査をまとめたものはこれが初めてだそうです。

 同調査で特筆すべき結果を3点ほど挙げてみましょう。まず1点目は、従前よりマンションに居住していた割合の高いマンションは、建て替え後も自己居住の高い傾向があるということです。逆に外部居住の割合が高かったマンションは新しくなってもマンションに戻ってこない場合が多い。(右のグラフ参照)つまり、一度転出すると戻らない傾向があるということ。だから、所有者が居住している間にマンションの将来について話し合っておくことが望ましいといえるでしょう。

 次に、所有者の建て替えに際しての不安は「仮住まい・引越し」「資金計画」「賃借人の退去」が多くを占めました。これは建て替えの話し合いがまとまりづらい理由が個別事情に起因するものであり、その解消法としては個々の面談が最も有効的であることを意味しています。区分所有法(通称「マンション法」)上の建て替えに必要な決議は5分の4ですが、旭化成ホームズでは原則3度の個別面談を全所有者と行い、全員の合意を目標としています。1件ごとの丁寧な対応が、建て替えの促進につながっているのです。

 最後に、建て替え時期の妥当性について、全体の55%が「適当だった」とし、43%が「もう少し早くてもよかった」と答えています。7棟のなかには築30年にも満たない物件が2棟(一方は隣接建て替えと合体して総合設計の活用を、もう一方は高さ制限が厳しくなる前に決断したマンションが)含まれていたのですが、これは老朽化だけが建て替えの引き金になるとは限らないことを実証しています。

 ”いずれやってくる建物の寿命を見据え、考えられる手法を早い段階から洗い出す。そして、できるだけ多くの区分所有者でそのイメージを共有しておく”―アンケートからはこんなマンション運営の理想的な姿が浮かび上がってくるようです。よく、「マンションは管理を買え」といいますが、管理意識の高いマンションは資産的にも有利だという理由がわかるような気がします。

 また資産という点では、マンションの物理的な規模や居住人数の多さから、社会的な資産としての側面にも目を向ける必要があります。街の安全や景観など影響の及ぼす範囲の大きさを考えると、マンションの魅力は住み心地以外にも求められる要素が多々存在するはず。東京が安全で魅力的な都市であるかどうか、既存マンションの今後の動向がひとつの鍵を握るのです。

【関連記事】
ヴィンテージマンションの建て替え



(左)地震でビルの外壁に亀裂が。(右)地面と建物の接点はとくにダメージが入りやすい。









建て替えのアンケート調査を発表する「マンション建替え研究所」 向田慎二所長

旭化成ホームズ㈱ マンション建替え研究所
http://www.asahi-kasei.co.jp/atlas/tatekae/index.shtml
       

【注目の最新記事】
住宅ローンのリスクに対する大いなる誤解
国の借金1000兆円超!日本経済は大丈夫なのか?
世界の政治経済を知らずに、不動産は買えない時代に?!

  • 建築家の自邸を訪ねて
    建築家の自邸を訪ねて

  • 地域と人とつながる住まい
    地域と人とつながる住まい

  • インタビュー 家について話そう
    インタビュー 家について話そう

  • ホーム&ライフスタイルトレンドレポート
    ホーム&ライフスタイルトレンドレポート

ページトップへ


TOP