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取捨選択で見つける、自分らしい豊かさ。 大人の住まい、大人のくらし

価値を時間軸で考えるリノベーションで、大人のくらしを手に入れる

 シングル・夫婦のみ世帯が増えたと言っても、流通している不動産物件の大半は現在も「ファミリー仕様」。シングル向けを謳っているものも、注文建築ではないため個々の住宅観やライフスタイルにフィットしているとは言いがたいのが現状です。

 こうした中、数年前から徐々に増え続けているのが、中古住宅を購入し、自分のライフスタイルに合わせてリノベーションして住む方法。日本におけるリノベーションの先駆けであり、多数の設計実績を持つブルースタジオの執行役員、石井健さんに、リノベーションによる住まいづくりについて伺いました。

 「都市部は家賃が高いので、世帯人数が少ないと可処分所得における住居費の比率がどうしても高くなってしまいます。そんな時、カップルで暮らして家賃を抑えるとか、コンパクトな広さのマンションを購入するという発想がでてくるのですが、既存のものだとなかなかぴったりなものが見つからない。そこで割安な中古住宅を購入してリノベーションするという第三の選択肢がでてくるようです」(石井さん)。

 ファミリー世帯の場合、子供の成長に合わせて将来の変化がある程度見え、計画も立てやすくなります。では、将来的に不確定要素の多いシングルやカップルの場合、どのように考えればいいのでしょうか。

 「私はよく”時間軸で考える”ということをお話しします。まずはこの先5年後10年後位のタームで、具体的な自分の暮らし方と、そこにかけられるお金を考えましょう、と」(石井さん)。

 中古マンションは新築マンションや一戸建てに比べ、経年による価格下落率が低い傾向があり、資産価値より使用価値として捉えやすいのが大きな特徴。今の自分達にふさわしい住空間を手に入れ、5年10年と満足度の高い暮らしを実現するリノベーションに、自分はどれだけお金をかけられるのか?それをまず考えることから始めようとの発想です。

 「資産としての購入リスクが全く無いとは言い切れませんが、 “かけるお金”と”得られる暮らし”をしっかり天秤にかけた上で、リノベーションを選択するというのが理想ですね。また、具体的な予算がはっきり見えてくることで、部屋をどの程度作りこむか、自分にとって”必要なもの”と”要らないもの”の取捨選択がリアルにイメージできるようになります」(石井さん)

 漠然としたイメージで表層的なリノベーションをするより、ある程度制約や取捨選択をはっきりさせたほうが、的を絞った良い設計ができるケースも多いとも。取捨選択するということは、同時に、将来的に変更できること、できないことなどをプロの設計者と同じ視点で考えることにつながります。今この時点でパーフェクト(ALL or NOTHING)を目指すのではなく、ある程度のタームで区切るという考え方は、大いに参考になりそうです。

 一方、子どもがいるご家族の場合、リノベーション空間のつくり方に違いはあるのでしょうか。  「子供がいても、空間づくりの考え方に大きな違いはありません」と石井さん。「大人にとって豊かさを感じる住空間は、子どもにも何らかの刺激を与えたり、驚きや発見があるもの。段差がつくる視界の変化や、先の景色が見え隠れする壁など、親が考えてつくり上げた空間に暮らすことは、自然と子どもが家について考えることに繋がり、『住育』としても理想的」と話します。

 ブルースタジオでは、リノベーションの醍醐味や不動産購入のステップなどを紹介する「リノベーション合同説明会」や、具体的に話を進めるための「個別相談会」を定期的に開催しています。興味のある方は、一度参加してみてはいかがでしょうか。


自転車が暮らしの中心にある夫婦は、室内に自転車整備もできる土間空間を大胆に取り込んだ。ボートハウスのようなリビングは将来個室を増やし、庭方向におもしろさを拡大することも可能


本とたくさんのコレクションを持つカップルは、家の中に小さな美術館をつくった。中心の円形スペースは内側(写真左)と外側(同右)で用途も表情も大きく異なる

取材協力:株式会社ブルースタジオ  http://www.bluestudio.jp/

小さな土地に、建築家と自分サイズの家を建てる方法

 家の時間「不動産PICKUP」でも、味わい深い建築家の住宅をご紹介いただいている不動産会社、トランジスタ。デザインの価値を引き出す個性豊かな土地や家屋を数多く紹介し、建築家との連携も豊富な代表の木村茂さんのもとには、「大人のコンパクトな住まい」を求める方も大勢訪れています。

 「地価が高く、床面積がとれない都市部の住まいにおいて、デザインが果たす役割はとても大きいと思います。ただ、以前なら『絶対にこの建築家に設計して建てたい』という方が多かったのですが、最近はデザインにはこだわるけれど突出した作家性は求めない、場合によっては中古もOK、といった”ゆるい”希望のお客様も増えました」と木村さん。

 注文住宅や中古住宅のリノベーションを考える時、窓口になるのが土地などを仲介する不動産会社。なかでも営業担当者との相性はとても大切なのだそう。
「自分がイメージするライフスタイルを担当者がわかってくれるか、感性が合うかどうかは、不動産会社というより、担当者個人で違いますね。物件に対する話だけでなく、こんな家に住みたいとか、こんな暮らし方をしたいといった夢や価値観に関わる部分をよく聞いてくれるかが重要です」(木村さん)

 同時に「土地を見て、どの程度のボリュームの家が建てられるのかをきちんと説明できる」「おもしろい土地を紹介するだけでなく、法的な裏付けもきちんと話せる」「注文戸建建築の手順を熟知している」「物件だけでなく、資金計画などのコンサルティングもしてくれる」なども、会社選びの基準になるようです。

 信頼できる担当者を見つけたら、物件情報収集をその人に集約することも重要。一人の相手と検討を重ねて希望や好みをしっかり共有することが、より精度が高く理想に近い物件を見つけ出し、素早い判断をくだすことにつながります。

 一方で住み手本人も、自分の価値観やライフスタイルの具体的イメージなど、住まいづくりのモチベーションをきちんと固めておくことが必要です。例えば「エリアにこだわるのか、予算とタイミングを重視するのか」といったことから、「車を持つか否か」、「将来売却や賃貸にすることも考えるか」などは、物件選びや設計に大きく影響する部分なので、最初に固めておきたいところです。

 「こうした部分の考えは、本当に人それぞれです。とことん自分仕様の家にするシングルの方もいらっしゃいますし、よりニュートラルなデザインに留めておく方もいます。不動産的には、形の上で個人の趣味が前面に出ている家は、売りにくいですね。一方、機能性を際立たせたデザイン性は、誰もが認めやすい価値だと思います」(木村さん)

 子どものいない世帯の場合、狭小地に小さな3階建ての家を建てるケースも多いのですが、40㎡以下の土地は住宅ローンが下りにくいので注意が必要です。逆に、一般的に敬遠されがちな準工業地域や近隣商業地域などは狙い目。世代交代で古い工場や商店が撤退して住宅地化いるエリアも多く、建物ボリュームに関する規制も緩やかなので、土地に対して床面積を多く確保できます。

 「同じ理由で、道路が北側にある土地もいいですね。道路斜線や北側斜線といった法的な制限をうまく処理しやすくなります。旗竿地も四方を囲まれる閉塞感から敬遠されますが、上部から光を入れるなど、設計次第ではかなり快適な家にすることができますよ」(木村さん)

 トランジスタでは、物件選びと同時に住み手の好みや価値観に合いそうな建築家を紹介していますが、建築家探す場合のポイントとしてデザイン力はもちろん、現場監理能力、コスト管理能力が大切とのこと。「どういうところで予算がオーバーしがちなのか」といった質問をしてみると、建築家の考え方が良くわかる場合があるそうです。もちろん、不動産会社と同様、ライフスタイルに対する価値観を共有できるということは、いうまでもありません。

 ひとつとして同じものがない土地を購入し、建築家と理想のデザイン空間を持つ家を建てることは、本来とても楽しい作業。不動産会社や建築家など、良いパートナーを見つけることと、自分の中の価値観や優先順位をしっかりつけることが、その楽しみを永続的に続けていく大きなポイントかもしれません。


間口4m敷地面積47.84㎡の狭小地。幅8mの道路に接する近隣商業地域で、住居系地域に比べ建ぺい率と容積率が高かったため、建物ボリュームを確保することができた


建て主はご夫婦と子どもの3人家族。鉄骨造のボックスに吹き抜けやオブジェ階段を配し、上部開口部から光を取り込んだフレキシブルな空間構成が印象的


取材協力:トランジスタ有限会社
 http://www.transistor-inc.co.jp

■取材ノートより
 今回のレポートでは、自分自身の価値観をしっかり見極め、そのモノサシをもとに取捨選択行うことで、理想の住まいを手に入れる方法をご紹介しました。取材中、興味深いエピソードを聞いたのでご紹介します。土地を探していた人が、条件にぴったりの物件を見つけた時のこと。唯一、その土地はご本人にはまったく想定外の、なじみのないエリアにありました。その際のご本人の言葉が「(架空の)おじいちゃんの土地を相続したから、ここに建てるしかないと思うことにした」。自分の中の優先順位ができていたからこその、素早い決断です。
 リノベーションも狭小住宅も、デザインの力で魅力を増すポテンシャルを持つ物件は、信頼できる不動産会社や設計事務所を見つけて相談するのが最も確実な方法。シングルやカップル向けの良質な住まいがまだ少ない現在では、価値観を共有できるパートナー探しが、最初の大事な一歩になりそうです。

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