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地域と人とつながる住まい 大正建築の学生寮を集合住宅に再生 求道学舎リノベーション住宅プロジェクト

 求道学舎(きゅうどうがくしゃ)は、明治35年(1902年)に近角常観という浄土真宗の僧侶が創設した学生寮で、信仰を中心に据えた共同生活を通じて、多くの人材が輩出された。
 当時は木造2階建てだったが、大正15年(1926年)、建築家・武田五一の設計により、RC造3階建てに建て替えられることになる。現存するRC造の集合住宅としては、首都圏で最も古い建物だという。
 今なお残るその外観は、まさに「洋館」そのものだ。シンプルな陸屋根にアーチ状の開口部。寮室はすべて南向きで西洋風の両開きの腰窓があった。各室には給排気口を備え、平屋部分には共同の台所と浴室もあった。トイレは水洗で、まるでホテルのようなモダンな白亜の建物だった。その後80年近くにわたり、学生寮としての役割を果たすことになる。

 改築・改修の案が本格的に検討されるようになったのは、2003年のこと。隣接する求道会館(近角常観が設立した仏教の教会堂)のように文化財として指定を受け、保存するという選択肢もあった。
 しかし、調査をすると築80年近い建物とは思えないほどコンクリートの強度が高く、劣化部分を除去して新たにコンクリートと鉄筋で補強すれば、十分に回復できることがわかった。結局は建物本来の意義を考慮して、現役の集合住宅として再生させる道が選ばれることに。
 その突破口となったのが、「コーポラティブハウス」という協同組合形式による改修案だ。定期借地権付き分譲として、住人(組合員)を募り、そこで集った資金をもとに、建物の性能が保持されるよう改修を行う。住人は62年間という期限をもって住戸を所有し、その後は返却するという方式だ。

 プロジェクトの中心となったのは、創設者の孫にあたる近角真一さんとその妻、よう子さん。ともに建築家で、プロジェクト全体のマネジメントや再生工法などのハード面は真一さん、リノベーションのプランニングや住戸のデザインなどのソフト面についてはよう子さんが担当した。
「もとの建築がしっかりとしていたので、やりがいがありましたね。建物も素晴らしかったけれど、なによりもそこに蓄積された人々の思いや暮らしの記憶のようなものに、強く引き込まれました」とよう子さんは語る。


住戸のひとつは、全長24mの廊下を取り込んだ間取りに。廊下部分には背の高い書棚を組み込んだ。構造の梁をアーチ型にデザインした独特の空間を味わえる。漆喰の白壁や白く塗装された天井、床は無垢のフローリングだ。各住戸には、システムキッチン、乾燥機付き洗濯機が標準装備された。利便性、快適性もしっかり考慮されている。
写真:堀内広治


Uさんの住戸は、もともとは厨房と浴室。煙や湯気を抜くための高天井をそのまま吹き抜けのように扱った。並んだ腰高窓の外には植栽の緑が揺れる。カーテン、ソファ、チェア、ラグとUさんの心づくしのコーディネートが空間に快い落ち着きをもたらしている。

 アーチ窓、回廊、漆喰の白壁、2m60~3m50cmもある高い天井。独特な洋風建築のモチーフはそのままに生かし、敷地内にそびえるヒマラヤ杉やケヤキなどの植栽も大切に残す。リノベーションにあたっては、学舎の創設初期から受け継がれる信仰・人材育成に伴う高潔な精神性、つまり目に見えない空気のようなものが重視され、その結果つくり出された環境が魅力となった。

 住戸は全部で10。建物や立地条件、そして求道学舎の再生に関わるという意義に心惹かれた人たちが「住人」として集まってきた。Uさんもそのひとりだ。
「絶対にほかにはない空間ですよね。あまりにも静かでゆっくりとした時間が流れていて。引っ越して1~2年はなかなか外出する気になれませんでした」と話す。

 住人はふだんそれぞれの仕事や生活に向き合い、お互いにはつかず離れずのちょうどいい距離感を保っているが、年に数度、学舎の屋上でパーティーを楽しむこともあるという。

「長い時間かけて育まれてきた建築や生活の文化に敬意を払い、こんな古い建物に価値を認めてくれた人たちばかりです。今回のプロジェクトは、建物の再生というだけでなく、文化の継承という意味も含まれていると実感しました」(近角よう子さん)。

 人が出入りするようになった求道学舎には、毎夜、各室に明かりが灯るようになった。その暖かな光は、新たに吹き込まれた命の輝き。過去の住人たちの暮らしの温もりさえ感じさせてくれるようだ。

昔のように窓に明かりが灯った求道学舎。
「外から帰り、アプローチを歩いてきて、この明かりが見えると、 ほっと安らかな気持ちになりますね」と近角よう子さん。
写真:堀内広治

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