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建築家リフォーム

2011年11月16日更新

玄関リフォームの機能とデザイン

 「玄関」という単語、普段良く口にする場所の名称ですが、建築家としてじっくり考えてみると、実は意外と曖昧な場所なのではないかと思っています。

 一般に「玄関」とは、靴やコートを脱いで、外出先からのホコリを払って、家に入ってゆく準備をする(外出するときは、全く逆の動作です)場所の総称で、エリアとしては玄関扉と土間(タタキ)、そこから框(カマチ)で一段上がった床部分、それに靴箱などの収納を含んだ空間の名前のようです。ただ、例えば玄関と玄関ホールの区切りはあるのか、玄関外のポーチは含まれるのか、などを考えてゆくと、もっと大きな定義があるようでもあり、玄関扉だけが玄関のようでもあり、やはり曖昧なのです。調べてみると、玄関という単語、元来は仏教の用語で「奥深い仏道への入り口」だったとのことで、精神的な空間のあり方を表現する言葉だったようです。因みに欧米では、玄関に当たる場所で靴を脱ぐ習慣はありませんので、段差はありませんし、コート掛けや姿見はあっても靴箱はありません。

 玄関という空間が曖昧であることと同じように、住宅の玄関には生活上、色々な機能が複合して求められます。その第一は出入り口としての機能でしょう。靴の脱ぎ履きや外出着の着脱には身を屈めたり、よじったりする作業があるので、高齢者でなくてもベンチや手すりなどがあると便利です。一人でもそれなりのスペースが必要なので、大家族の場合はなおさらでしょう。また、外出前に自分の姿を最終チェックするための姿見の鏡、傘や帽子、自転車や車の鍵置き場も欲しいところです。また、戸建では当然のように存在している框の段差ですが、内廊下型のマンションではフラットになっている場合もあるので、どこを上足下足の見切りラインにするかまで考える必要があります。

 次に求められるのが、接客機能です。宅急便や隣近所の方の不意の訪問時は、玄関に招き入れて応対しますので、それに対しての準備が必要です。上記のベンチも役に立ちますが、玄関からリビングが丸見えにならないための扉が欲しくなります。今でも大きな一軒家で勝手口や縁側があれば、届け物や店屋物のお届は勝手口に、知り合いの訪問は縁側に、正式な来客時だけ玄関をつかうといった風に上手く分けて使っているようです。しかし玄関が一つだけの家であれば判子も常備しておきたいところです。郵便や新聞配達の受取り口も必要になるケースもあります。

 忘れてはならないのは、防犯機能でしょう。マンションなどで幾重にもゲートがある場合は別ですが、玄関扉はセキュリティーの大きな役目を担っています。ダブルの鍵や訪問者をチェックできるドアスコープの他に、ドアガードも付けておきたいところです。防犯機能と相反する部分もありますが、通気機能も重要な要素です。特に片廊下型の団地やマンションの場合、南面する居間側には窓があっても、廊下側には窓がない場合もあります。そんなときは玄関扉のみが北への風の抜けを確保する開口になってしまうことも頻繁にあります。他の扉には網戸があっても玄関には網戸がないことで、通風と防犯と蚊が入ってくるリスクと相談して玄関扉を開けておくケースもあります。最後に、上記の色々な機能で発生する物の収納を確保しなくてはなりません。

 このように、機能や使い方から見てゆくと、玄関という小さな空間に求められる要望の多さに驚かされます。ところが、お仕着せの建売住宅やマンションでは、見栄えだけが重視され、意外と適当に作られていることが多いのです。僕らが玄関も含めたリフォームを検討する場合は、まず戸建住宅の場合は、外にゲートがあるのか、勝手口があるのかなどによって、またマンションでも片廊下型か室内廊下型か、セキュリティーラインやプライバシーはどうなっているのかなどによって、必要機能を取捨選択することから始め、限られたスペースの中でどれを優先するか等をクライアントと細かく打ち合わせ、空間として一体感があるように設計してゆくことになります。

 写真で紹介している事例では、玄関ホールに面した来客用トイレを目立たせなくするデザイン的工夫や、姿見を壁に埋め込んで一体化した事例、玄関扉に網戸を仕込んで、ベンチを設けた事例などを紹介しました。



石張りの床は、段差をスロープで解消しています。灰色のパネルの一部が
トイレ扉、その横がコンパクトな姿見です



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明るく開放的な玄関。入って右に手摺棒とベンチ、左に靴と傘収納、
ホールの対面には大きな姿見の鏡があります


北側に面した唯一の開口部なので、引き込み式の網戸で通風を確保。
オーク材の家具、タイル張りの土間タタキで柔らかい雰囲気に。


シックで落ち着いた雰囲気の玄関。右には間接照明付きの細い飾り棚のある靴収納、
その奥には壁埋め込みの姿見、来客用のトイレの扉も壁とフラットに納めました



建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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