2011年07月20日更新
造作家具とリフォーム
建築家が設計するリフォームには、造作家具がつきものです。造作家具(ぞうさくかぐ)とは、オーダースタイルの特注品で、壁や床・天井などに固定した、造り付け(作り付け)家具のことです。専門的には、造作家具屋さんが箱と扉を作ってピッタリと納めるビルトインスタイルと、大工さんが現場で材料から組み上げる現場造作スタイルの二つに更に分かれます。壁一面を収納にした壁面収納や固定された棚板、クローゼット内にピッタリと作られたハンガー棚や特注のキッチンなども造作家具の一つです。
既製品の置き家具と比較すると、サイズやデザイン、使い勝手や用途まで自由に作れることが造作家具の一番の特徴でしょう。基本的には木質のボードで作ることが多いのですが、周囲のデザインに合わせて、ステンレスなどの金属やガラス・鏡、更に凝ったケースでは和紙や皮をといった材料の使用や、照明の組み込み・お気に入りの取手の採用なども可能です。特にリフォームでは、既存の構造体である躯体を大きくいじることが難しく、細かい寸法の調整やぽっかりと空いた空間を収納として活用する際に大いに役立ちます。壁裏に設備配管が通って、上下で奥行きが違っている壁にピッタリの収納を作ったり、柱の出っ張りや壁の引っ込みをデザイン的に上手く活用したり、建具や枠材と同じ仕上げで一体化して見せることもできる、そんなところが建築家のリフォームで愛用される理由のようです。また、収納する物に合わせて調整することができるので特別に大きなお皿の収納や特殊なAV機器の置き場所などを用意することもできます。他にも、カスタマイズすることも可能なので、子供の成長に合わせて作り変えていくことや、取り外しも可能なので、引っ越しの際に持ってゆくこともできます。忘れがちなメリットとしては、安全性も挙げられます。壁や天井にしっかりと固定し、耐震ラッチを付けることも可能なので、震災の際に内部の収納物がこぼれ落ちてけがをする心配も少なくなります。
ただ、造作家具も万能ではありません。一番問題になるのが価格のことでしょう。自由度が効く分凝ったデザインや仕上げになりやすく、現場の凹凸に合わせて設計し、取付けの際にも削り合わせる調整が必要になるので、費用が高くなりがちです。特に仕上げがきれいなビルトインは費用が高止まりしやすいので、現場造作と上手く組み合わせながら活用することをお勧めします。また、個別対応の製作となるので、工期が掛かってしまうこともデメリットです。現地の採寸や、特殊デザインの打合せなどもあるので、信頼できる設計士や家具屋なしでは、満足度の高い家具に仕上がらないことも注意が必要な点です。
まだまだ、一般的には敷居が高い造作家具ですが、大規模なリフォームの際には、是非上手く活用して、オリジナルで、自分らしく、使い勝手の良い家具をオーダーしてみてください。
注)似たようなもので、システム収納家具というものもあります。こちらは既製品のパーツを組み合わせて作るセミオーダースタイルの家具になります。材料や寸法の自由度が造作家具に負けますが、費用はその分リーズナブルになります。
壁に合わせて白く塗装した扉とナラの突板の扉を使分け、特殊な寸法のキッチンを大工造作で作った実例
特注で作った食器棚 左下にはアンティークのカトラリー収納、グラスやテーブルクロスなど収納に応じて扉の開き方を変えて、それをデザインに活かした実例
平面でわかる通り、棚の背部にはコンクリートの柱が隠れている。隙間と柱に造作家具をかぶせ、奥行きのある収納と浅い飾り棚で、凹凸のないスッキリとした空間へとリフォーム
玄関の造作家具 左から靴の脱ぎ履き用のベンチ(手すり棒付き)、靴収納、プライベートエリアへの隠し扉を一体でデザイン
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/