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建築家リフォーム

2011年02月16日更新

建築家のキッチンリフォーム

 リフォームの中でも、キッチンリフォームと言われるとキッチン部分だけを、工務店が新しいキッチンユニットに交換するか、ちょっと凝ってもキッチン専門業者が閉じたタイプの台所をオープンスタイルのキッチンに変更するような、比較的簡易な設計・工事だと思われているようです。しかし、建築家がキッチンの根本的な問題にまで立ち入って、キッチン周辺まで一度解体して設計すると、見違えるように使いやすくなることがあります。大規模なリフォームと一緒に工事することが多いのですが、今回はキッチン部分にだけ絞って、そんな事例を紹介しましょう。

 目白S邸のキッチンは、リビングダイニグから完全に独立し、料理をしている奥さまがLDで寛ぐ家族の話も聞けず、手伝ってもらうこともできないことが問題でした。通常の解決策であれば、キッチンユニットを交換したうえで、キッチン背面のカップボード部分に開口をあけ、食事や食器の出し入れをできるようにすることが考えられたと思われます。しかし、このケースでは、隣にあった大きな洗面トイレを巻き込んで、キッチン自体の向きを90度回転させることで問題を一気に解決することが出来ました。LDと合体することでキッチンが家の動線の中心にきたので、以前は廊下を通って自分の部屋に直接行けた子供たちが、リフォーム後はオープンキッチンの奥さまの前を通ることになり、家族のコミュニケーションが豊かになりました。また、クローズドキッチンの利点は、片付けしないでも不意の来客に対応できる便利さだと思われますが、このケースではキッチン奥にパントリー収納を設け、見栄えの悪い電子レンジなどの調理機器類や食器・保存食料を隠すことができるようになりました。レンジフードの位置は変わっていませんが、トイレの移設やシンクの移設が伴い、リビングやダイニングの家具レイアウトも一変する大掛かりなリフォームなので、建築や設備のノウハウが乏しい業者や設計者では提案しにくい内容だったと思われます。





【目白S邸】リビングダイニグから独立したキッチンを、90度回転しながら、
LDと合体させ、奥にパントリーを確保している


ダイニングに面したキッチンなので、対面カウンターの立ち上がり壁をカウンター上部に伸ばし、手元を隠している


かつては暗く、孤独だった台所が、リフォームによって明るく、家の中心になった


建築家リフォーム バックナンバー

 野田N邸のキッチンでは、かつてはダイニングに対して完全にオープンだったキッチンを、一部隠してしまうリフォームを行いました。ひとり暮らしのお母様の家に、息子さん夫婦が同居することになり、そのタイミングで30年間機器も交換せずに使っていたキッチンを大きくリフォームすることになりました。こちらでの大きな問題は、すべてがフルオープンで、何も隠せる場所がないことでした。通常の解決策であれば、無理やり対面式のキッチンを入れて、ダイニングの面積を犠牲にしたのではないかと思われます。しかし、このケースでは、隣にあった浴室を家の奥に移してしまうことできる空間を利用して、玄関近くの来客用トイレと、食器棚を納めることができる壁のニッチ(凹み)、そして冷蔵庫や炊飯器などを隠すことができるコーナーを設けることで、すべての問題を解決することができました。既成のキッチンを二本連結することで可能になった、長さ5.4メートルの超ロングカウンターは、料理に使うだけでなく、下部の引き出しに十分な食器を収納することが可能です。また、カウンターの端部には家事コーナーを設けることで、子供たちに邪魔されずに家計簿などの作業が出来るようになりました。思い出があった嫁入り道具の食器棚も、壁にピッタリと納めることでインテリアの一部になっています。意外と配置が難しいインターフォンやスイッチ類も、ニッチ横の壁にレイアウトすることで、使い勝手が向上しています。やはりこちらでも浴室の移動やトイレの増設などが絡んでいるため、キッチン部分だけを見たリフォームでは解決し得なかったと思われます。

 大掛かりな工事となっている分、費用は嵩んでいることは確かです。しかし、キッチンの問題の多くは、キッチンを交換するだけでは解決できないことが多いのも事実なのです。オープンなキッチンに憧れてリフォームしたのは良いけれど、片付けることが上手くできず却って人を招きにくくなった例や、ダイニングの大きさが狭くなることを理解せずに、キッチンばかりを大きくしてしまい、使い勝手が悪くなってしまった例なども見てきました。住宅全体のバランスを見ながら、キッチンだけの問題に絞らず空間を俯瞰的に考える、そんな建築家が手伝うキッチンリフォームも考えてみては如何でしょうか?


【野田N邸】食堂に面した隠す場所もないオープンのキッチンが、
横へと移行することで、冷蔵庫などの機器も隠せるキッチンに変身


茶色い箱に食器棚が埋め込まれ、その奥にキッチンの調理部分が隠されている
   


30年間使われてきた小さなキッチンが、長さ5.4メートルもある、使いやすく快適なキッチンへと生まれ変わった



建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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