1. 家の時間トップ
  2. TOP TOPICS
  3. ホーム&ライフスタイルトレンドレポート
  4. ひとつ屋根の下で豊かな暮らしを手に入れる 「共住」のカタチ

>バックナンバー

ホーム&ライフスタイル トレンドレポート
[第7回]
ひとつ屋根の下で豊かな暮らしを手に入れる「共住」のカタチ
取材・文 田中やすみ

ご存知ですか?「コーポラティブハウス」と「コレクティブハウス」

 今回取り上げるのは、どこも住み手が主体性を持ち、集合住宅だからこそ持てるメリットを最大限に活かした暮らし方。一般的に「コーポラティブハウス」「コレクティブハウス」と呼ばれるものです。まずはじめに、耳にすることも多いコーポラティブハウスの意味と誕生した背景について、長年に渡り数多くのプロジェクトに携わってきた(株)綜建築研究所の中林会長にお話を伺いました。

 「コーポラティブハウスは、もともとは居住希望者が法人を作り、土地を購入して建物を設計、施工する、欧米発祥の集合住宅を共同所有する形の住まいです。土地と建物の所有権は法人名義となり、たとえ自分の住む部屋でも個人所有にはならないのが本来のスタイルです。ただ日本の場合は法律の関係もあり、共同方式で土地を取得して建物を作り、建てた後は区分所有にするというスタイルをとっています。分譲マンションと違って自分達で一から計画するので、いろいろと専門的な知識が必要になり、私どものようにコーディネーターが間に入って全体をまとめるケースが多いですね」(中林会長)。

 こう書くととても大変なことのように感じるかもしれません。でも、コーポラティブハウスのルーツというのは、実は消費者運動。”安全で質の高い家を妥当な価格で手に入れる”という、生協の共同購入の住宅版といえるものなのです。「最近は “エコロジー””ペット””高

 

 

齢者”など特徴的なテーマを持つコーポラティブハウスも増えています。分譲マンションと違い、時間も手間も、作り方によってはお金もかかることもありますが、その分本当に思い入れのある住まいを手に入れることができます」(中林会長)。

 一方で「コレクティブハウス」とは、世帯ごとに個別の生活空間を確保しつつ、居住者同士が共同で使うスペース(コモン・スペース)で生活の一部をシェアする、北欧発祥の暮らし方。もともとは女性の社会進出に伴い家事負担を減らそうと誕生したものですが、日本ではどちらかというと、良好なコミュニティを生む集合住宅のあり方として注目されています。

 例えば、共有キッチン(コモン・キッチン)を使って入居者が交代で夕食を作り、共有ダイニング(コモン・ダイニング)で一緒に食べる「コモン・ミール」。交代制にすることで一人あたりの負担は大幅に減り、調理や食事を共にすることで居住者の間に自然な交流が生まれます。プライバシーを守りながら、個人の負担を減らし、交流のある暮らし。そこにはわたし達が探し求めている要素を数多く含んでいるように思います。

 では、さっそく3つのケースを見てみましょう。

【環境共生型コーポラティブハウス】自然環境、住まい、人のつながりが豊かさを育む

環境共生型コーポラティブハウス「経堂の杜」にある同社の事務所。脈々と続いてきた豊かな緑を、新たな住人の生活を快適にする装置として位置づける


取材協力: 株式会社チームネット
  http://www.teamnet.co.jp/
  エコロジー住宅市民学校
  http://www.teamnet.co.jp/ecoschool/01

 コーポラティブハウスのプロデュースを行う組織は数多くありますが、今回ご紹介する(株)チームネットは「環境とのつながりと、そこから発生する住まいと人とのつながり」をコンセプトにした住宅づくりに力を入れている会社。土地本来の自然環境を活かしたプランニングに定評があります。

 「環境、住まい、人。すべてのつながり(関係性)は、豊かさや快適さの源泉になります」と話すのは代表の甲斐さん。例えば窓のすぐ外で木々が風に葉をふるわせ、その先に雑木林の緑が幾重もつながるような風景に、何とも言えない贅沢さを感じる人は多いことでしょう。「その贅沢さというのは、四季を通じて変化する自然環境に自分がつながっているという心地よさなんです。そして、同じことを感じる住人同士が出会い、気持ちよさを共有してつながっていく。私たちがめざしているのは、そんなコーポラティブハウスです」。

 これまでに手掛けた「経堂の杜」「欅ハウス」「風の杜」は、いずれもその地に以前からあった屋敷林を活かしたもの。樹木をはじめさまざまな生命を育んできた自然のポテンシャルを損なわないよう、ある建物はそっと寄り添い、ある建物は包み込まれるように、細心の注意を払ってレイアウトされています。同時に、建物はパッシブデザイン(自然の力を利用して室内の快適性を高める建築デザイン)を採用し、外環境を”天然の空調装置”として位置づけ、建物とつなげることで、快適な住環境が実現しています。一世帯だけでここまでの状態を作るのはかなりの困難と経済的負担を伴いますが、複数の住人が力を合わせるコーポラティブハウスなら、実現はこのようにぐっと現実的になるのです。

 また、相続税の負担に苦しみながらも良好な自然環境を維持しようとする地主や、地域の資産として守ろうと活動する住民も次第に増えています。そこで甲斐さんが主宰する「エコロジー住宅市民学校」では、外環境を活かした快適な住まいづくりの勉強会を定期的に開催しています。

 コーポラティブ住宅をコーディネートする際に、甲斐さんが必ず伝えることは「一生懸命仲良くなろうとしなくていい」「自分が得するために協力する」という2つのこと。コミュニティはあくまでも手段であり、コミュニティそのものを目的にするのではないといいます。とはいうもののそこは同じ価値観を持つ者同士、結果的には、互いのライフスタイルを尊重しながら穏やかなつきあいが育まれていくのだとか。環境を中心としたつながりの輪は、個人の生活も確実に豊かにしていくようです。

【多世代型コレクティブハウス】多世代の「目」と「手」でゆるやかにつなぐ、一人ひとりに豊かなくらし

大人も子どもも思い思いの場所で食事を楽しむ。奥に見えるタペストリー代わりの帯は、インテリアグループがディスプレイをした。季節ごとに変わるのだとか


取材協力:コレクティブハウスかんかん森

■入居に関するお問い合わせ
 株式会社コレクティブハウス http://ch-i.net/

 東京都荒川区の「かんかん森」は、ワンルームや2DKの独立世帯からシェアルームまで、さまざまなタイプの住戸を持つ多世代型コレクティブハウス。各戸は独立した賃貸で、現在は3歳の赤ちゃんから80代まで、多彩な家族構成の21世帯24名が生活しています。

 完成したのは2004年。最大の特徴は、170㎡以上あるコモン・スペースで行われる、居住者同士の生活の共同運営です。週3回のコモン・ミールは、月に1回2~3人のチームで調理を担当すれば、残り11回は他の当番の料理を食べられる仕組み。共用スペースの掃除は3ヶ月に1回の頻度で回り、各々が自分のできる時間帯に済ませます。居住者は自主運営を行うための居住者組合「森の風」を結成し、月に1回の定例会や多彩なグループ活動など、運営をよりスムーズにするための活動も活発に行っています。

 「ここにいると”生活している”という実感があります。独身なので以前のマンションは寝に帰るだけでしたが、かんかん森は共用空間も広いし、いろいろな活動やイベントで世代を越えた付き合いが自然に広がる。ちょっとリッチで豊かな生活をしているという感じです」と話すのは、森の風代表で、イベント会社に勤める藤原さん(42歳)。平日は残業で帰宅が遅いため、コモン・ミールは取り置きしてもらい、掃除当番は週末にこなすなど、自分のペースでここでの暮らしを楽しんでいます。

 また、かんかん森に企画段階から参加していた木村さん(63歳)は「そんなにみんなで頑張って助け合っている、という感じじゃないのよ」と笑います。むしろ、合理的に生活を豊かにしようという考えが、コレクティブハウスの本質なのだとか。「コモン・スペースで誰かと話せば違う視点に気付くことも多いし、子どもがいればさまざまな人に接して成長できる。自分の生活を大事にしながら、ちょっと困った時にお互い声をかけられる安心感ですね。なにより、コモン・ミールをみんなで食べるといろんな料理を楽しめて、しかも安い(笑)」。

 取材をしている間も、コモン・スペースには居住者が出たり入ったり。その度に「おかえりなさい」「風邪、治った?ごはん余分に作ったからあとで部屋に届けるね」といった会話が絶えず交わされていたかんかん森。自立した者同士が適度な距離を保ちつつ、無理せず助け合う暮らし方は、時間に追われ一人ひとりの負担感が大きい現代人にとって、ひとつの新しい解決策のように感じました。

【シニア版コミュニティハウス】「在宅」でも「施設」でもない、第3の住まい提案

外観も部屋も普通の賃貸住宅だが「施設っぽくしたくなくて」勾配屋根を採用。ウッドデッキでのカフェや夏祭りを企画するなど地域交流も盛んだ


取材協力: 生活科学運営 http://www.seikatsu-kagaku.co.jp/
  NPO法人 福祉マンションをつくる会 http://www.fukushi-m.jp/

■高齢者向け住宅に関するお問い合わせ ※上布田つどいの家は現在満室です
 株式会社 生活科学運営 http://www.seikatsu-kagaku.co.jp/

■共生の住まい方に関心のある方のお問い合わせ
 NPO法人 福祉マンションをつくる会 http://www.fukushi-m.jp/

 神奈川県川崎市の「上布田つどいの家」は、1階に高齢者支援施設、2、3階に18戸の賃貸住宅を持つ複合住宅。住まい手の組織であるNPOが設計段階から参画し、住む人や利用する人の要望を取り入れながら計画を進め、2007年に完成しました。

 計画の中心となった(株)生活科学運営は生活者が中心になる住まいを長年提案しており、増え続ける単身高齢者の実情に合う住まいづくりの必要性を強く感じていました。「高齢者といっても、8割の方が少しのサポートがあれば普通に生活できると言われています。でも住まいは、単身で不安を持ちながら暮らすか、子どもの家に身を寄せるか、介護施設に行くか、極端な選択肢しかないのが現状です」(同社広報部 八木さん)。そこで考えたのが、居住者同士がつかず離れずの距離を保ちながら自立して生活し、万が一の時に声を掛けたりサポートを受けられる多機能集合住宅でした。

 48㎡の1LDKに単身で暮らす木下さん(70代前半)は、週に数回デパートで働く明るい女性。「子どもの転居を機に、ここへの引越しを決めました。もとの家は広すぎるし、普通のマンションだと若い方ばかりで…でも老人ホームにはまだ早すぎるわよねと思って(笑)」。木下さんのようにご自身で居住を決める人がいる一方で、子ども世帯が遠くに住む親を呼び寄せるケースも多いのだとか。生活リズムが違う二世帯同居は、親子どちらも負担が大きいもの。自宅近くの「スープの冷めない距離」に住み、万が一のサポートも受けられるここなら両者とも安心です。

 「子どもがいないので、これから夫婦でどう生きがいを持とうかと考えています」と話すのは大畑さんご夫婦(夫70代前半・妻60代後半)。生活そのものは大きく変わりませんが、夫婦で居住者同士の食事会や花火見学に参加し地域情報を交換するなど、新しい環境をうまく取り入れています。上布田つどいの家では、NPO法人 福祉マンションをつくる会が住まい方の提案を行い、その中で入居を希望する人をコーディネート。そして暮らしがスタートしたあとは調整役となり、イベントや地域交流を定期的に開催。慣れない土地でも寂しさを感じずに済む人も多いようです。

 「ひとりで暮らすのは不安だけど子どもに迷惑をかけたくない」「年齢や費用面で有料老人ホームへの入居にはためらいがある」と悩むシニア世代のニーズを的確に捉えた『第三の住まい提案』。今後、独立心の強い団塊世代やおひとりさま世帯の高齢化が進むにつれ、ますます必要になってくるように思います。

■取材ノートより
 入居者組合が土地を購入するコーポラティブハウスの建築数は、不動産市況に大きく影響されるのだそうです。地価が高騰している時期は、資金力のある専門業者が土地を高額で購入するため手を出すことができないからです。「そう考えると、地価が下落し不動産不況といわれる現在は、逆にチャンスなんですよ」との(株)綜建築研究所の中林会長のコメントが印象的でした。コレクティブハウスは、発祥地の北欧が比較的クールなつきあい方をするのに対し、日本は居住者間の関係性が濃密になりがちなのだとか。「”寂しがりやの一人好き”ぐらいの人が、ちょうどいいのかもしれません」(生活科学運営の八木さん)。実は、わたしがまさにその通りの性格。将来の選択肢のひとつに入れようと思います。


【注目の最新記事】
住宅ローンのリスクに対する大いなる誤解
国の借金1000兆円超!日本経済は大丈夫なのか?
世界の政治経済を知らずに、不動産は買えない時代に?!

  • 建築家の自邸を訪ねて
    建築家の自邸を訪ねて

  • 地域と人とつながる住まい
    地域と人とつながる住まい

  • インタビュー 家について話そう
    インタビュー 家について話そう

  • ホーム&ライフスタイルトレンドレポート
    ホーム&ライフスタイルトレンドレポート

ページトップへ


TOP