2015年11月04日更新
樹木の剪定は必要? 不必要?
マンションの植栽管理の仕事をしていると、住民の方から「この木は切らないでほしい」というご意見をいただいたり、逆に、ベランダが暗くなるので、「この木はもっと切ってほしい」というご要望をいただいたりすることが、頻繁にあります。場合によっては、1本の同じ木に対して、1階にお住いの方は「切ってほしい」と言われ、3階にお住まいの方からは「緑がきれいだから切らないでほしい」と言われることもあり、作業する側の人間として、なるべくご要望に沿いたいと思いつつも、頭を悩ませてしまうこともしばしばあります。
では、どちらの意見正しいのでしょう? もしくは、どちらの意見を尊重するべきなのでしょうか?
まずは、そもそも、「剪定」という作業とはどういうものなのか?ということからおさらいしてみましょう。
「植物,おもに樹木を望ましい形にするために枝などを切ることをいう。果樹,造園樹木などでよく行われる。開花,結実を調節し,収量を上げるために,枝を主体に形を整える剪定を整枝trainingといい,観賞価値を高めるように樹姿を整える剪定を整姿trimmingと称して区別する。剪定の目的は,(1)形を美しく整然と,またはある特定の形につくる,(2)生育を調節し,開花,結実を良好な状態にする,(3)古い枝を除くことにより新しい枝を発生させて若返らせる,(4)密生した枝,枯枝,病枝など生育の障害になる部分を除いて健全な状態にする,(5)徒長を抑え,風害,寒害,病害などに対する抵抗力を強化する,(6)挿木に適当な枝を切り,生産用に供する,(7)移植に際して枝葉を切除することにより蒸散など水分消費を少なくして,活着をよくする,などが考えられる。」(世界大百科事典 第2版より)
剪定の一番の目的は、「形を美しく保つこと」です。そして、適切な時期に枝を切ることで開花を促進したり、花数を増やしたりすることができます。逆に、混み合っている枝を放置しておくと、病気や害虫が発生しやすくなってしまったり、生育不良になったりして、花付きが悪くなるなどの弊害が出てきてしまうこともあります。ですので、定期的に剪定作業を行うということは、庭木にとってとても必要なことなのです。
「切らないでほしい」という風に考えらえる方は、おそらく、「せっかくここまで大きくなったのに可哀相・・・」という気持ちがあるのではないかと思います。
確かに、自然界では、誰も剪定作業などは行いませんね。自然界では、樹木の根は張れるところまで張り、その分、地上部も大きく広がることができます。病害虫にやられてしまうこともあるかもしれませんし、隣の木が大きくなりすぎた影響で、競争に負けて枯れてしまう木もあるかもしれません。マンションや住宅の庭など、人工的につくられた空間では、根っこを張るスペースが限られている場合もあります。そんな場所で地上部の枝葉が伸びすぎると、バランスが悪く、台風などの強風の際に、倒れてしまう危険性もあります。また、高木・中木・低木・下草類とバランスよく計画された植栽地で、ある特定の植物のみが大きくなりすぎてしまうと、当初のデザインとかけ離れたものになってしまう可能性もありますし、大きくなった植物の陰で、ある植物が枯れてしまうということも、しばしば起こります。
例えば、京都の寺院の庭を想像してみてください。樹木は常に手入れをされ、地面の部分には、落ち葉などは落ちておらず、清潔に保たれていますね。もし、あのお庭の樹木が剪定されなかったとしたら・・・1年であっという間に、デザインは崩れ、見る影もなくなってしまうはずです。
剪定は庭木にとって必要な作業であるということ、わかっていただけましたでしょうか?そして、大切なのが、その植物に適した時期に、適切に行うということです(前回の記事をご参照ください)。剪定するからといって、大幅に切りすぎて、姿を損なうようなことになってしまってはいけないですし、時期を間違えてしまえば、花が咲かなくなってしまったり、かえって弱ってしまうこともあります。そのような作業を適切に行い、住民の方たちから信頼をしていただけるのが、私たちプロの仕事だと思っています。
このような美しい庭園は、熟練した職人の手による刈込や剪定によって保たれているのです。
- 株式会社Q-GARDEN代表取締役
小島 理恵 町田ひろ子インテリアコーディネーターアカデミー 講師
横浜生まれ。信州大学農学部森林科学科卒。「ガーデンづくりを通じて、地域の景観・環境の向上に貢献する。」をポリシーに、その環境に合った植栽プラン、植栽内容に合った土づくりにこだわり、ガーデンの「デザイン」→「施工」→「年間管理」を行っている。植栽に関する知識や経験の豊富さなどから、ミュージアムなど大規模なガーデンの年間管理の依頼や、コンサルティングなどの依頼もある。2014年4月『はじめてでもカンタン! おいしいベランダ野菜』を出版。