2015年05月06日更新
その造園会社は、50年先のことを考えていますか?
植物にも寿命があるのは、ご存知ですか?例えば、草花の「一年草」は、ワンシーズンで種を残し、寿命を終えます。「多年草」とよばれる草花も、永遠に生き続けるわけではなく、五年ほどすぎると、徐々に衰退してきます。樹木も同様で、屋久杉のように数千年も生き続けるものもあれば、カキやモモのように数十年といわれているものもあります。
先日、日経新聞にこんな記事がありました。「桜並木 近づく寿命」(2015年3月25日付)として、桜並木で有名な国立市が古い木の伐採を始めた事例を取り上げています。「開花時期には『桜のトンネル』として親しまれる一方、2011年には腐って倒れた桜や車道に傾いた桜と、車が衝突する事故が2件発生。市は道路改修と並行し、伐採と植替えを決めた。」とのこと。一般社団法人「街路樹診断協会」(東京・港)の事務局担当者の話として「桜の腐朽は回復できない」・「倒木の危険のある桜は今後も増え続ける。計画的な植替えが必要だ」ということも伝えています。なんとなく長生きしそうなイメージがある桜のソメイヨシノも、都市部の環境下では、50~60年と、人間よりも短い寿命なのです。
最近、築30年ほどのマンションの植栽について、調査させていただく機会がありました。ケヤキやサクラなどの高木が立派に育ち、遠目にはとても豊かな緑空間を形成しているように見えます。しかし、実際に敷地内を歩きながら詳細に見てみると、生育した根によって舗道が盛り上がってしまい、歩行者の転倒が懸念される箇所や、台風や大雪の際に落下する可能性もある、傷んだ太い枝などが散見されました。
もちろん、住民の方々も気づかれていると思います。しかし、例えば、高木の太い枝を剪定し、処分するには、高所作業の特殊な技能が必要となり、枝の処分費も高くなるなど、通常の緑地の年間管理の作業とは別に費用が必要となってきます。それぞれの問題箇所の処理には、それなりの費用がかかることや、緊急の問題ではないことから、なんとなく先送りにされてしまっているというのが実情なのではないでしょうか?
また、私たち造園業者側にも問題があるということも実感しました。毎年の定期的な作業を行うだけでなく、近い将来、樹木が寿命を迎えることや、その前に問題が起きることなどを見越して、例えば、20年、40年、60年の単位で、植替えや改修の計画をするなど、先のことを見越しての提案をしていく必要があります。配管やエレベーターなど、設備関係の修繕と同様に、緑地の改修に関しても、長期的な予算の中に準備しておいていただく必要があると思います。
それでは、「なぜ、これまで造園業者側からそのような提案がされてこなかったのか?」と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。実は、日本に西洋式の庭園ができて、ようやく110年あまり。日本で最初の分譲マンションが出来てからまだ、60年ほどと、実は、マンションの緑地の歴史は、まだまだ浅いのです。これから植物たちが人間よりも先に寿命を迎える時期を見越して、豊かな緑地を守りつつ、快適な生活空間を保てる改修計画を、私自身も提案していきたいと考えています。
そろそろ寿命を迎える桜(左)と桜の根の生育により、舗装が浮き上がってしまっている様子
- 株式会社Q-GARDEN代表取締役
小島 理恵 町田ひろ子インテリアコーディネーターアカデミー 講師
横浜生まれ。信州大学農学部森林科学科卒。「ガーデンづくりを通じて、地域の景観・環境の向上に貢献する。」をポリシーに、その環境に合った植栽プラン、植栽内容に合った土づくりにこだわり、ガーデンの「デザイン」→「施工」→「年間管理」を行っている。植栽に関する知識や経験の豊富さなどから、ミュージアムなど大規模なガーデンの年間管理の依頼や、コンサルティングなどの依頼もある。2014年4月『はじめてでもカンタン! おいしいベランダ野菜』を出版。