2014年12月18日更新
インテリアとアートの関係について
インテリアにとってのアートの存在は、その空間の持ち主である住人と同じように、なくてはならない存在なのではないでしょうか…。住む人がいなければ、住宅は存在する意味が(ほとんど)無いように、アートが存在していないインテリアは、暮らす人の姿が見えない無人の家のようになってしまう気がしています。
マンションリフォームは元来とインテリアデザインの比重がとても大きいものです。家具やペンダント照明、カーテンやラグのファブリック類、アートや彫刻、置物などの調度品の選択が欠かせないものなのです。もともとアートを持っていらっしゃるお客様であれば、そのアートのサイズや色味、マチエール(テクスチャー)を一つの主人公として考えて、インテリアを考えて行くことができましたが、新しくインテリアを作ってからアートを決めることはとてもデリケートなことなのです。
好きな音楽と嫌いな音楽があるように、アートも直観的に好き嫌いが分かれるものです。そして、誰もが感じていることだと思いますが、アートはその評価や価格設定が難しすぎて、どの作品にどれだけの費用を掛けてよいかの判断が難しいのです。好き嫌いがはっきり分かれたパーソナルなもので、かつ価格の妥当性が判らない高額なアートをどのようにインテリアに取り入れるべきか、色々な知り合いにその方法をヒアリングしてきましたが、ある方に「自分で好きだと思えるアートを、自分のお金で購入するトレーニングをすべきだ」とアドバイスされました。自分で買ったこともないものをお施主さまに進めることは難しいことは理解していたので、それ以来、年に2~3作品ずつのアートを購入するようにしてきました。お陰さまで、自宅はアートだらけになってきましたが、一つずつの作品に購入した際の妻との会話の記憶や思い出が詰まってきて、さらに何気なく眺めていたアートから思わぬ発想を貰ったりした経験を経て、少しずつアートの存在価値が感覚的に掴めるようになってきました。
とはいえ、お施主さまが住む空間にアートを選ぶのは、やはり至難の業であることは変わりありません。ただ、以前と変わったことは、空間にマッチするアートを探すのではなく、空間に足りていない要素をアートに補ってもらうという発想になってきたこと、さらにはアートが持っているキャラクターを考え、彼らにも一緒に空間作りを手伝ってもらうような感覚を持つことで、アート作品が探しやすくなってきました。設計者が一人で考えたデザインはどうしてもデザイン的統一感が高く過ぎて、下手をするとショールーム的な空間になりがちです。そこに足りていない要素、たとえば男性的でカッコ良すぎる空間には温かい色合いのアートを入れてみたり、無機的で生活感がないインテリアには自然を感じるような作品を取り入れてみたり、そんなイメージでインテリアアート探しをすると、お施主さまもがしっくりするようなアートが取り入れられるようになってきました。
アート選びをお願いされた際には、まずはアートギャラリーを巡るようにしています。インテリアアート的な作品を扱っている画廊はあまり多くありませんが、空間の写真を見せながらギャラリーの方にサイズやイメージを伝えて、候補になりそうな作品を収蔵庫から出して見せてもらいます。まずはお施主さまが好きそうなもの、空間にマッチしそうなもの、インテリアを補完してくれそうなもの、力強くてイキイキと感じるものなどを直観的に選ばせ貰います。それらを壁に立て掛けて並べてから、やはり空間に合う合わないをスタッフや画廊の方と話しながら15~20点ほどに絞って、それらを借りる算段をしてお施主さまの家に持ってゆきます。アートを掛けたいと想定していた空間に色々なアートを交互に手持ちで掲げながらクライアントの直観的な意見を伺っていきます。ブレインストーミング的に色々な視点を交えて話をしてゆくうちに、だんだんとインテリアとアートの相性が見えてくるのが不思議なところです。最初は良いと思ったものが、他のアートが決まってくると貧弱に見えたり、初見では誰も推さなかったものを最終的に購入することになったりと、選ぶ段階自体がドラマのようなのです。一度で決まらないことも当然あるので、その場合はまた日を改めて、違ったアートをご持参して同じ作業を繰り返してゆきます。
最後に皆がこれで決まりだという雰囲気になったところで、アートの価格を教えてもらいます。当初から、インテリアのアートとして選んでいるので、それほど高額な作品は選んでいませんからアッと驚くことはそれほどありませんが、最初に価格を聞いてから選ぼうとすると、どうも直観力が鈍ってしまうようです。一度決まったものでも、何か月かしてからどうしても交換したいといわれることもありますが、時間が経てばたつほど空間に馴染んでゆくことも多く、一年後に再訪させてもらった際にアート選びの際のエピソードをお施主さまと話し合ったりすることも多々あります。まだまだ芸術性が高く、価格も高いアートをお勧めした経験はありませんが、これからはお施主さまのご希望によっては、そういったものを候補に入れながら、アートを取り入れることでインテリアの幅・奥行きも広げて行きたいと思っています。
玄関横のベンチ上に掛ける絵の候補。黒っぽい空間だからこそ、
イキイキとしたアートを選んでみましたが、
ここに掛ける作品は未だ決まっていません…。
リビングダイニングに掛けるアート作品をお施主さまに見てもらいながら選んでいる様子
廊下突き当りのアートは、何枚もの候補を矢継ぎ早に交換しながら、
直観的な意見を聞いて決めて行きました
ギャラリーを訪問して、実際のアート作品を自分の目で見ながら候補を選んでゆきます。
こんな時に、とても気に入った作品を見つけて、自分で購入してしまうこともあります
無機的でスタイリッシュな空間に自然を感じる絵を取り入れたこともあります
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/