2014年11月26日更新
柱の隠し方、梁の消し方 マンションリフォームのデザインのコツ
マンションリフォーム・リノベーション工事ならでは独特のデザイン手法に柱と梁の対処方法があります。一般の木造戸建て住宅であれば、木の柱は壁の内側に隠せるサイズですし、梁も当初から天井高さを考慮しておけば、大きな空間の天井に梁が走ることはまずあり得ません。鉄筋コンクリートのラーメン構造(柱と梁の構造)であれば、どうしても部屋の隅に柱が出てきたり、梁がある部分の天井が下がってしまうことは仕方がありませんが、設計当初から間取りと構造が調整されていれば、それほど目立つことはありません。しかし、間取り変更を伴うマンションのリフォームとなると、柱と梁の処理方法が大きな問題になってくるのです。
マンションリノベーションの設計を志している若い設計者・デザイナーから一番よく聞かれる質問も、この柱の隠し方、梁の消し方なのです。もちろん、物理的に柱や梁を消してしまうことはできないので、どのようなデザイン手法を使ってそれらの存在を目立たなくするかのコツをここでお伝えいたします。柱を隠す一番オーソドックスな方法は、ちょうど間仕切り壁と柱の位置を揃えて、柱を目立たない部屋(例えば納戸や洗面)側に出っ張らせることです。ただ、どうしても部屋の角にあらわれてくる柱はこの方法ではどうしようもありません。その場合に良く採用するのが、「柱が出っ張っている」のではなく、「柱と柱の間の壁が凹んでいる」かのようにデザインする手法です。写真の白金台K邸の事例では、壁が凹んでいることを示唆するように、床を幅木分一段上げて、天井も一段下げて、まるで床の間のように演出しました。柱面と揃えた造作収納棚を向かって右側に作っていることで、凹んだイメージが強くなっているハズです。同じデザイン手法の延長で、凹んで見せる部分の左右と上にフレームを廻すことも有効です。ここでも柱面に収納家具を合わせてデザインしたり、へこんだ面のクロスをデザイン張りにして、人の視線が出っ張った部分ではなく、へこんだ個所に集中するように工夫しています。もう一つの方法は、家具を柱に被せて作ってしまうデザインです。南平台N邸の事例では、解体時に部屋の壁から大きな柱が飛び出ている様子が判りますが、出来上がった際の同じアングルの写真では、柱が消えてしまっています。実は、向かって右側にある木製の家具で柱を囲い込んでしまっているのです。腰高のスリットに鏡が張ってある部分がありますが、ちょうどその背面が柱となっているのです。従って、その上部と下部は扉のようなに見えますが、一種のだまし絵のようなもので、この扉は開かない仕組みになっています。部屋の中央に柱が立っていた白金N邸では、柱を膨らませて、背部をこじんまりとした読書スペースとして、正面壁にテレビを掛けることで、柱の唐突な存在感を消してみました。
梁の消し方で有効なのは、全体の天井高を2段に調整して、梁下を低い方の天井と揃えてしまう手法です。いわゆる折り上げ天井のように見せる手法の応用です。神戸M邸の部屋の中央を梁が横切っている場合は、ちょうどソファーを置く位置を下がり天井と合せて、梁奥のスペースには天井カセット式のエアコンと曲がった壁をテラス間接照明を入れています。梁の手前にも少しスペースを残してダウンライトを入れることで重たさを感じさせない作りとしています。品川区Y邸の玄関では、梁がある部分を作り付けの靴収納でカバーしています。ちょうど梁があることで奥行きが取れていない個所は、手前にはLEDを入れた照明ボックス、奥の扉の中には分電盤を収納しています。
他にも柱・梁の隠し方、或いは魅せ方はまだまだ考えられると思っているので、これからも研究・実験しながら、マンションリフォームのデザインのコツを極めてゆきたいと考えています。
神戸M邸では天井の真ん中を走っていた梁は、梁下部に合わせて
天井を下げ、下げてできた空間に天井カセット式エアコンや照明を埋め込んだ。
小さな玄関に梁型のあった品川区Y邸。梁下には造作家具で靴収納を設け、
梁部分は寸法が小さくなるので、行燈型の照明をデザインし、奥の扉内には分電盤を設置した
白金台S邸のリビングニッチ。柱が出ているのではなく、
柱に挟まれた壁部分が凹んだように見せるデザイン。
絵画や彫刻を飾って床の間的に使っている事例
南平台N邸リビング壁面の中央にあった柱は、柱の出っ張り寸法に合わせて
デザインした作り付け収納で囲み、表面に扉に見えるパネルを張って家具のように見せた
柱サイズに合わせてフレームを三方に廻した寝室。凹みに張ったアクセントクロスとテレビ、
ダウンライトと収納などのデザインと合せて、凹み部分に視線が集まる工夫をした
白金N邸の部屋の中央奥に立っていた構造柱は、周囲に読書コーナーと
本棚を作ることでサイズを膨らませ、背部にテレビを設置して機能を持たせた
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/