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建築家リフォーム

2013年09月18日更新

アクセントウォールとアクセントクロスの効用

「アクセントウォール」ということばは、プロの設計者の間ではそれなりにポピュラーな言葉でしたが、最近はお施主さまからも頻繁に聞くようになりました。壁や天井を無難に白やベージュを基調としてまとめると、ツルンとして、捕えどころがない空間になりがちなので、そんな時に、ある1面(たまに2面の事も)の壁の材質や色、柄や模様を変えることで、部屋全体のインテリアに強弱(アクセント)をつけることを指した言葉が「アクセントウォール」です。賃貸のワンルームマンションで、壁の一つの面に色や柄を入れた特徴のあるビニールクロスを張る「アクセントクロス」も含まれる考え方です。

 従来の分譲のマンションや建売住宅では、どこにどのような家具を置いても良いように、とにかくニュートラルで、クセのない空間を作ることが一般的でした。真っ白で窓のない四角い部屋があったとすると、その中でどこに向かって座って、どのように家具を置くかは確かに自由ですが、何も引っ掛かるカギになる要素がなく、落ち着きを感じにくそうなことが想像できるでしょうか?そんな時に、一面の壁に色がついていると、それを背にして座るか、それに正対するかの判断がしやすくなります。マンションや戸建て住宅ではベランダに面した窓や、玄関やキッチンからの入り口があるので、それらをキッカケに家具をレイアウトすることができますが、それでも誰でもが自由にレイアウトできることを重視した間取りになっているので、決め手になるものが欠けがちです。そんな時に、一つの壁に色を付けてみることを想像すると、それをキッカケにどこにソファーを置いて、テレビをどう配置するか、大事な絵や写真をどの壁に飾るかが見えてくることがあります。壁の色によっては、壁の軽重が感じられるようになるからなのです。その軽重のイメージや人の動線を考えながら壁にキャラクター(特徴)をあたえてあげると、とたんに空間の雰囲気が変わって、空間自体がイキイキとしてきます。それがアクセントウォールの考え方です。

 小さな部屋の方が想像しやすいので、まずベッドルームで考えてみましょう。寝室では(方角にもよりますが)壁側にベッドの頭を寄せることが多いですね。その壁に木質の材料を張ったり、濃い色を塗ってみると、大きなヘッドボードがついているようで、居所が決まるような落着きを感じやすくなります。子供部屋でも全ての壁をピンクにブルーに塗ってしまうより、一面だけに色を持ってきた方が、その色のコントラストが際立って色を強く意識しやすくなります。トイレでも便器の背面に色を塗ると特徴のあるトイレ空間になります。リビングダイニングは家族が一緒に過ごすことが多い空間で、かつ面積も最も大きい空間なので、アクセント的な壁を二面配することもあります。一つはテレビ(欧米であれば暖炉)を置く壁に色を付けて、もう一面はダイニング横の壁で、絵や家族の写真を飾る場所にしたりもします。アクセントウォールはその色や柄によって空間に癒しをもたらしたり、豊かな雰囲気にしてくれたり、賑やかな色彩を与えたりすることで、家族のライフスタイルに影響を及ぼしてくるものです。

 アクセントの色や素材、柄を考える上で重要なポイントは以下の通りです。

①家具やアート、そして人の顔色が引き立つ色を!
お手持ちの家具や調度品がどのような色で映えるのか、背面に色々な色味や素材を持って来て実験しながら考えるとヒントになります。また、女性の場合は服の好みやお化粧の色味も参考になりそうです。

②他の面で使っている色とのマッチングを考えて
真っ白なペンキや壁紙はあまり使わないもので、白く見えてもオフホワイトといって、白にベージュやグレーなどの色を混ぜているケースがほとんどです。その混ぜられた色味を引き出してアクセントに使うと、派手すぎず、かつ落ち着いた雰囲気の空間になります。

③夜の照明も考えて素材を選びたい
日中だけでなく、暗くなってから、どのような照明にどう映えるのかも重要な要素です。 光の反射具合や透明度なども研究しましょう。

 万能のようにも感じられるアクセントウォールですが、あまり派手な色や柄を使うと時間を経ることで飽きてしまうことがありますし、地味にし過ぎると映えてきません。また、家族の歴史や考え方を上手く反映した柄ですと暮らしに上手くフィットしてくれますが、写真集を参考にして、勢いだけで選んだ柄だと、暮らしてゆくうちに違和感を感じてしまう事もあるようです。塗装や壁紙であれば、後で塗り直したり、張り替えたりすることもできますので、過度に失敗を恐れることはありませんが、建築やインテリアのプロに相談しながら、上手に活用して貰いものです。




余ったフローリング材を玄関の正面に張ったことで、空間にフォーカルポイント(視線が集まる見せ場)が生まれた事例



正面の和箪笥とピアノの色を参考に選んだ小豆色の塗装アクセントウォール。しっとりとした色味で、空間に落着きを与えてくれています


右手のコンクリート打ち放し面がアクセントのリビングルーム。荒々しいコンクリート素地がアクセントになって、ハードでスタイリッシュなインテリアを纏めています


ライムストーン張りの壁は、色味では際立ちませんが、素材が持つ上品さ、特に夜の照明で映える華やかさでアクセントとなっています


トイレのような小さな空間では、よりアクセントウォールの効果は高まります。大理石張りの背面壁のお陰で、来客用トイレのグレードが一段あがりました





建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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