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建築家リフォーム

2013年08月21日更新

壁面収納デザインのコツ

 リフォームといえばまず第一に収納計画の充実と言われる位、「物が多すぎて部屋が片付かない」、「どこに何をしまったのか判らず、物探しで時間ばかり取られる」といった不満を解消したいというご相談が多くありました。そんな悩みを持った方々から、壁面収納を作ることで収納の問題を解決できるのではないかと言われることも多くありました。ところが、僕らのリフォーム設計事例をご覧になれば判る通り、それほど大々的な壁面収納を作ったケースがあまりありませんでした。

 床から天井までの壁に沿った空間を、立体的に、無駄なく、高密度に収納として有効活用するのが造り付けの壁面収納です。簡単なものであれば、「無印良品」や「IKEYA」の収納ユニットを買い貯めてゆき、結果的に壁面全体を収納として活用することもできますし、もう少し凝った収納やデザインを考えるのであれば、システム収納と呼ばれるもので収納ユニットをカスタマイズして選びながら、壁面全体を仕上げるスタイルの製品もあります。多彩な仕上げパネルのデザイン・寸法体系・収納方法の部材・部品の組み合わせの中からニーズに合ったものを選択でき、壁一面を隙間なくすっきりと納めることができるので、一般的な人気が高いのはよく判ります。ただ、収納計画を良く考えずにとりあえず収納を用意しておけば、部屋を片付けられるといった安易なものでは当然失敗しますし、収納も住人の生活によって変わってゆくので、フレキシブルさのないキツキツの計画でも、数年経つべ収納が破たんしてしまいます。僕らは床と天井と壁という住空間の基本となる構成要素をインテリアで重視しているので、その一つの壁を隠してしてしまう事を本能的に避けてきたのかもしれません。

 そんな中でも、納戸もトランクルームもなく、平面的に収納量が限られているケースでは、壁面収納を設計した事例が幾つかあります。そんな時に特に注意してきた項目が以下のポイントです。
① 収納物に適した奥行きの理解
② 開き扉と引き戸と引き出しの違いを活用
③ 見せる収納と隠す収納のバランス
④ あえて収納を抜いて、壁を見せて抜け感を作る
⑤ 周囲の建具や天井、照明計画も一緒にデザインする
といったことを注意してきました。

 ①奥行きが一番深い布団や洋服収納に合せて、壁面収納を作ってしまうと本や食器などの小型のものはしまいにくくなってしまいます。引き出しや特殊な機構を使って工夫しても限度があるので、奥行きを変えながらデザインするフレキシブルさが必要になります。②引き出しに人気が集まってきていますが、高さが低い場所での引き出しは有効ですが、腰より高くなってくると段々と使いにくくなってきます。また、コスト的にも引き出しは高いので、開き扉や引き戸を上手く使いたいところです。③全てを隠すと扉だけの収納になってしまうので、小物を置いてアクセントになりそうな場所や、使い勝手的にオープンが良い個所は棚板が見えているデザインとして、全体のバランスを調整する必要があります。④より高度なデザインテクニックになりますが、圧迫感を感じさせないように、所々に抜けを作って背面の壁を露出させることを心がけています。実用的にもテレビを設置する個所は箱で組んでしまうと、将来的にサイズアップができないので、壁を作って置くメリットもあります。⑤全体リフォームと合せて行わないとできないことですが、収納物を確認する際に手許暗がりにならないように照明レイアウトを考え、壁面収納だけが浮いて見えないように、横の建具や天井までも一緒にデザインしてゆくと、空間になじみやすくなります。他にも、扉やカウンター材の色や質感を上手く変えて、立体感を演出したり、電化製品のコンセントや照明スイッチの位置なども一緒にデザインすると、より整理された収納になるハズです。

 最後になりますが、収納計画の基本は、住まい手の暮らしを深く理解し、生活パターンを分析して、なぜ散らかってしまいがちなのか、どうすれば片付けられるのかをクライアントと一緒に考えることです。壁面収納にも当然限度がありますので、収納できないものは捨てて貰う必要があるかもしれません。じっくり相談して、色々なパターンを検討して、クライアント(奥さまだけでなく、ご主人や子供たちも含めて)が自信を持って壁面収納を使いこなせると思えるまで話し合う必要があると信じています。


テレビ置き場と上部のエアコン(扉は木製ルーバー)、両サイドの収納と納戸への扉を一体で作った事例。扉を収納と揃えたデザインで仕上げ、存在感を隠している


壁二面に沿って作られた壁面収納事例。左側がクローゼット収納、左奥は玄関への引き戸、正面はテレビ置き場で下には引き出しを用意した


正面のクローゼット収納は奥行きが60センチあるので、左の食卓横のカウンター収納とは奥行きも扉のデザインも変えている。クローゼットは天井のデザインと繋がることで一体感を演出


寝室への扉(左端)を隠した壁面収納。あえて、天井一杯まで作らず、圧迫感を感じさせないようにしている。


玄関の壁面収納事例。靴だけでなく、傘やスリッパ収納に加え分電盤まで仕込まれている。一部を空けて飾り棚として、抜け感を出している






建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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