1. 家の時間トップ
  2. 住まいの情報
  3. 建築家リフォーム
  4. モールディングとケーシングの活用方法

>バックナンバー

建築家リフォーム

2013年04月17日更新

モールディングとケーシングの活用方法

 ここ数年、僕らに来るリフォーム相談で、モールディングやケーシングなどの装飾要素を望まれるお客様が増えてきています。お話を伺うと、シンプル過ぎるインテリアや薄っぺらで安っぽく見える内装、画一的なデザインに飽きてきたことが原因のようです。モールディングで陰影を加え壁の美しさを表現したり、重要な建具・開口部にケーシングを回し奥行き感を与え、天井にもメダリオンや装飾を加え見せ場を作るというご提案で、とても喜んでくださいます。洋風な装飾といっても、ドロドロしたバロックや、過剰なロココ調などに走るのではなく、適度な装飾の中にモダンな家具やアートを合せながらミックステイストのインテリアを楽しみたいというのが、そういった皆さまが希望している内容です。

 そもそもモールディングとは、ギリシャ・ローマの建築から始まった西洋建築の歴史に則った内装造作材です。壁や床、天井という大きな面が接合する部分を装飾すると同時に保護したり隠したりする要素も併せ持っています。床と壁の境を走るベースボード(巾木)、開口部周りを飾るケーシング、壁と天井の接合部のモールディング、暖炉の縁取りであるマントルピースや腰壁なども含めた総称用部材の一般名称ともいえます。元来、天井が低く、和洋折衷のライフスタイルが独自に発達した日本の住環境に、モールディングは容易に馴染まず、高級レストランやホテル、劇場やエンターテイメント施設といった、ドレスアップしてゆく大人の場所でしか目にしない、ちょっと「バタ臭い」建築要素でした。しかし、だれもが外国を旅行して、多くの人が海外に住んだ経験を持ってくるに従って、その陰影に富んで華やかな印象、塗り重ねながら使いこなしてゆくことで、さらに風格を増してくる魅力に惹かれ、装飾要素として取り入れたいという人が増えてきたのだと考えられます。

 僕が米国・ニューヨークで修行した設計事務所では、どのプロジェクトにもモールディングを採用することは当たり前でした。インテリアのテーマを決める際に、どのような年代のどのようなスタイルにするかを相談して、様式や歴史的背景的にもそのテーマに合わせたモールディングをデザインしてゆくことが設計提案の重要なポイントでした。現在の日本では、モールディングと言えば寸法のあった既製品をメーカーカタログから探して、それぞれの装飾が持っている意味など考えずに、直観的に組み合わせることがまだ多いようですが、向こうでそれをしてしまうと、歴史を知らない素人の設計者のように扱われてしまいます(とはいえ、米国の大学・大学院の建築科ではモールディングの歴史はほとんど教わりません。皆モールディングを使うような事務所に働き出してから勉強するのですが…)。

 日本のインテリアでモールディングを使う場合は、欧米との空間のサイズ、プロポーションが違う箇所に特に注意しながら使うことが重要です。低い天井に大きなモールディングを付けると、圧迫感が増すだけなので、小さなサイズのものを使うか、折り上げ天井に間接照明と合せて使う等の工夫が必要です。窓回りも欧米は縦長のプロポーションが多いのですが、日本は横長が一般的です。横長の大きな掃出し窓に一本のチェアレールを長く使っても冗長に見えてしまうので、窓をわざと分節化して、小分けにしたところにリズムよく装飾をまわすようなことも考えられます。建具周りのケーシングも、建具そのものの素材やデザインとマッチしていないと、「変に着飾った貧乏人」のように見えてしまいます。全ての要素を一通りそろえると、空間のボリュームが小さい日本の住宅には過剰な装飾になってしますので、どこに取り入れて、何を抜くのかが、施主と設計者の重要な打合せ事項になってきます。自然光で美しく見せるのか、照明で陰影のボリュームを上手く補助するのか、また白く塗装するのか、色を付けてアクセントとするのかといった判断も必要です。

 まだまだ日本の一般住宅には馴染んだとは言えないこれらの装飾要素ですが、これからは住人の個性を表現する方法の一つとして、徐々に取り入れられてゆくことになるのではないでしょうか?僕ら設計者も、モダンな建築には合わないものだと切り捨てず、もっとその可能性を見出すべく、積極的に採用してゆくべきだと思っています。


折り上げ天井の内部に装飾を施した例。
部屋の中心を演出するメダリオンと円形のシーリングレール


壁と天井の接合部と折り上げ天井の縁にモールディング、
開口部周りにケーシングを廻したマンションリフォーム。
巾木も特別にデザインした大き目のベースボード


天井のモールディング(既製品)と建具廻りのケーシング(特注)の取り合い


米国の事務所では、モールディングや装飾部材はプロジェクト毎にデザインしていた





建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

  • インテリアコーディネートのヒント
    インテリアコーディネートのヒント

  • 本当に暮らしやすいマンション選び
    本当に暮らしやすいマンション選び

  • ハウスメーカー進化論
    ハウスメーカー進化論

  • 中島早苗の「心地いい場所」
    中島早苗の「心地いい場所」

  • 日常に寄り添うインテリアアート
    日常に寄り添うインテリアアート

  • 正しい家具の選び方
    正しい家具の選び方

  • 50代からの住まい
    50代からの住まい

  • マイホーム入門<不動産の基礎知識>
    マイホーム入門<不動産の基礎知識>

  • ウィンドウトリートメントを楽しむ
    ウィンドウトリートメントを楽しむ

  • 建築家リフォーム
    建築家リフォーム

  • 照明のセオリー
    照明のセオリー

  • 良質な賃貸住宅で快適に暮らす
    良質な賃貸住宅で快適に暮らす

  • 資産価値を考えた空室対策
    資産価値を考えた空室対策

  • 私、沖縄に移住しました。
    私、沖縄に移住しました。

  • 地域材の活用
    地域材の活用

  • 【プロが厳選】注目の分譲マンション
    【プロが厳選】注目の分譲マンション

  • 大規模マンションの管理修繕
    大規模マンションの管理修繕

  • マンション売却のコツ
    マンション売却のコツ

  • マンション植栽 造園
    マンション植栽 造園

  • 今、マンションは買いか、待ちか
    今、マンションは買いか、待ちか

ページトップへ


TOP