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建築家リフォーム

2013年03月20日更新

マンション間取りとリフォームの理由

 都心の港区で事務所を開いていることもあってか、最近のリフォーム設計の相談・依頼のほとんどはマンションリフォームになっています。これまでは築年数の古いマンションの相談が多かったのが、このところは築浅(築5年以下)や中には新築のマンションの間取り変更リフォームの依頼も増えてきました。

 家族の人数が多かった時に購入したものを、子ども独立のタイミングでリフォームすることや、古いスタイルで水回りサイズが小さかったものを、新しい設備を入れ替えて間取りも一緒に変更することは、想像することは簡単です。ところが、最新の億ションをご購入し、まだ一度も住まない段階でリフォームするという考え方は、もう少し複雑なのかもしれません。1億円以上の費用で購入したのに、カスタムメイドで仕上げ材をオーダーできず、床材や壁紙を交換し、建具や造作家具を作り直すような方もいれば、大きめの間取りを買って、部屋数を減らすことで各部屋を大きくするような方もいらっしゃいます。

 新築なのにリフォームが必要ということは、間取りと購入者の間にミスマッチがあると言い換えることができそうです。勿論、間取りに選択肢が少なく、希望の立地のマンションに、最適な間取りがなかったというケースも多いようですが、同時に間取りを考える側の不動産会社(デベロッパー)と設計事務所・設計施工の建設会社(ゼネコン)の理論と、間取りを実際に購入して使いこなす側となる施主陣の間に、齟齬があるのではないでしょうか?

 不動産・建築側(つまり作って売る側)の理論としては、60平米だったら2LDK、80平米だったら3LDKというルールに則って作るべきという強迫観念や、立地とグレードによって、理想的な居住家族像(ターゲット)を設定し、すべての間取りをその目標に合わせるというマーケット感覚、間取りや仕上げ材を一つ一つ変えてしまうと、コストが高くなってしまうという経済理論、高級マンションでも一つ一つの間取りを丁寧に設計してゆくと時間が掛かってしまうという時間的な制限などで、どうしても間取りが画一化してしまうようです。それに対して、住む側(購入する側)は、家族4人で住むような理想的なパターンは徐々に少なくなってきて、夫婦とお祖母さまの3人二世帯暮らしだったり、夫婦プラス仕事場だったりと、よりフレキシブルにライフスタイルを追求したいような居住者像が増えてきているので、ミスマッチは防ぎようがないのかもしれません。

 それでも大規模リフォームを決断するのは、本当に大変なので、我慢している方も多いでしょうし、ましてや築浅だったり新築だった場合は、まだ使えるものを壊すことに、モラル的な問題を感じる方も多いようです。しかし、僕らリフォーム設計する側から考えると、限られた空間を居住スタイルや収納計画に合せて最適化することは、その後の長い生活を考えた際には、最も効率的な判断なのだと考えています。適していない空間に長く暮らしてしまうと、収納に無理が生じたり、家族の関係にも変なクセがついてしまったりで、住人のストレスが溜まってしまうものだと思っています。

 戸建住宅と違って、増築や減築が不可能なマンションでは、とにかく空間を最高度に活用することが必要なのだと信じています。トイレの後ろに隠れた空間を見付けだして収納に変えたり、細い廊下は幅を増して書庫空間として活用したりなど、細かい工夫から大きな間取り変更まで色々なアイデアを練ってゆく必要があります。風通しや採光も、どうしても良い条件と悪い条件の部屋に分かれがちですが、部屋の向きを変えたり、水回りの位置を変更しながら、部屋同志の繋がりを変えてゆくなどの方法で、何とか条件を均一化してゆくことも求められます。家族の構成人員に対して狭い空間の場合は、立体的な収納方法を考えたりしますが、反対に部屋が多すぎる場合も家族書庫やパントリーなどを作って、生活がより楽しめるような計画を練ってゆくことが可能です。

 マンションのリフォーム・リノベーション事例は10年前に比較してどの会社でも圧倒的に増えています。購入した間取りをどのようにリフォームすれば最適化できるのかは、じっくり各社事例を比較検討すれば答えが見つかるかもしれません。僕らリフォームする側の、会社の仕切りを超えて、面積や間取りに対してどのようなリフォームが可能なのかをアーカイブ化(一括に記録・保存する)してゆく必要がありそうです。


築5年の築浅マンションで仕上げ材の変更・設備の刷新を中心に纏めたリフォーム事例


:築浅マンションで、水回りの位置を部屋の中心に移設して、周囲を回遊できる部屋と動線に
リフォームした計画の模型



回遊動線にリフォームしたマンションのダイニング。右手の水廻りを納めたボックスの手前は
キッチン、正面には書斎コーナーを、奥には落ち着いたリビングを設けた



既存の間取りの無駄な部分を分析して、クライアントのライフスタイルや収納まで考えながら
間取り変更したリフォームスケッチプラン




建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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