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建築家リフォーム

2012年07月18日更新

リフォームで書斎を実現する

 書斎と似た言葉で、仕事部屋、趣味室、書庫(ライブラリー)、といったものがありますが、なにか書斎だけは特別なイメージがあるように思えます。書斎は、子供禁制の大人だけの空間で、古い図書館の書庫のようにちょっと埃っぽく、見たことのない百科事典や洋書が並んでいて、なにか懐かしくもあり知的な興味をそそる不思議な雰囲気を想像してしまいます。おそらく、子どもの頃に読んだ英国や米国の子供向け文庫のイメージに引きずられているのでしょうが、やはり特別な雰囲気を持った空間であって欲しいという気持ちは常に持っています。
 書斎はコンパクトながら家の中でも一番静かな場所であるべきでしょう。空間としては閉じており、そこにちょっと広めの机と快適なイスがあって、小さいけれど通気と景色を楽しめる窓があって、それ以外の壁は造り付けの本棚でビッシリ囲まれている。広さはそれほど必要なく、コンパクトで手を伸ばせば必要なものすべてに手が届くことも重要なのかもしれません。仕事コーナー的にはコンピューターとプリンターは必需品で、当初はなくても将来的には趣味の音楽や映像を楽しめるコンパクトな装置も欲しいところでしょう。読書だけでなく、執筆活動や、作曲・編曲にも、趣味のミニチュアモデルやコレクションを愉しむことも書斎の用途の一つでしょう。

 上記のように書斎の特徴や使い勝手を書き連ねてゆくと、「書斎」とは「使う人が好きなこと、やりたいことに集中することができる空間」と定義できるのではないでしょうか。内に籠もって、読書を通じて日々の出来事や仕事を見返し、また好きな作業に没頭することで自分と向き合い、一人の人間としてリフレッシュする。そしてそこから発想を転換して、社会の動きを考えるといった風に外と繋がることができるという不思議な性質をもった空間です。
 そんな素敵な空間である書斎ですが、それでは、スペースと予算さえあれば、この空間をリフォームで実現化できるかと言えば、実はそれほど簡単ではありません。なぜなら、この書斎という空間が個人向けのとてもパーソナルなスペースであること自体が、家族の政治的な問題(?)を孕んでいるいるからです。基本的に住宅は家族のためのものとされています。奥さまが快適で機能的なキッチンを望むのと同じレベルでご主人が書斎を希望しても、キッチンは家族のための健康的な食事を用意する場所という大義名分があるのに対し、書斎はあまりにパーソナルで家族に対して強く主張することができないのです。書斎を作るならそのスペース分の納戸の方が必要だと家族に押し切られて、本棚は廊下に並べて、寝室の一角に小さな机コーナーを設けて仕事コーナーとなってしまった事例もあります。

 「自宅での仕事に使う」といって書斎の実現を押し切ってしまうことも一つの手段ですが、奥さま用にはキッチンの奥に専用の家事コーナーを作るというのも一つの手かもしれません。レシピを見るラップトップのコンピューターが置けて、家計簿や子供の学校通信などの書類作業ができるできる場所は、奥さまにとっての書斎といえます。スペース的に余裕があれば、夫婦一緒に使える大きめの書斎をご提案することもあります。一人での静かな創作活動や、コレクションを使っての遊びは難しいかもしれませんが、自分の好みのイスとコンピューターは別個に用意しておけば、子どもは入って来れない落ち着いた大人の空間は確実に実現できます。
 家族全員で使える家族書庫は書斎を拡大解釈した空間でしょう。子供も親がどんな本を読んでいて、それを通じてどんなことを考えているかが興味があります。そんな刺激が、子どもを成長させるキッカケにもなるようです。夫婦でも書斎を使いたい時間はズレていることが多く、子どもが使う時間帯は確実に違ってくるので、意外と使い勝手は良いようです。ただ、読んだ本は元に戻す、他の人の物は無闇に触らない、椅子は各人用に用意しておく、鍵は掛けないなどの共通ルールは家族で事前に決めておかないと、いつも散らかった、子どもの遊び部屋兼納戸のように、何にも使えない部屋になってしまうので注意が必要です。

 これから書籍は電子図書化が進めば、本という形で保存することは不要になってゆくかもしれません。でも、自分がこれまでの人生で読んできた書籍全てが本棚に並べることを想像すると、自分の脳の中身を見ているようで不思議で嬉しい感覚になるのではないでしょう。やはりリフレッシュ空間としての書斎は、小さくても、家族共用でも作りたいものです。


リビングに書斎と書庫を連結した事例。夫婦揃っての本好きな施主のために、
蔵書量から本棚を逆算し、十分以上な本棚を確保した。棚の所々に抜けを作って、
圧迫感をなくしている


簡単な仕事の打ち合わせも可能な書斎の事例。正面のスチールサッシの先が
リビングだが、木製ブラインドでプライベート度を調整することが可能




机は打合せと収納を考えて特注。右手の棚には、趣味のクラッシックギターを保管し、
左手には飾り棚と下部には書類収納や引き出しを設けた




夫婦二人で使う書斎の事例。長いカウンターテーブルは共用で、
好みのイスと使いやすいコンピューターを並べている。本棚は将来の事も考えて多めに用意した





建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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