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中島早苗の「心地いい場所」

2013年03月27日更新

「2.5世帯住宅」という集住スタイル

 旭化成ホームズの命名、提案
がきっかけになってか、
社会的に認知されてきた「2.5世帯住宅」。
私も昨年12月からアップされているこのコラムで
最初の記事を書いた。

 今回はその続編として、実際に2.5世帯スタイルで暮らす
東京都のSさんの例を紹介したい。
 Sさん邸は敷地34坪、延床面積52坪の3階建て。
60代の両親(親世帯)、30代の長男夫婦と子ども1人(子世帯)、
同じく30代の次女とその子ども1人(0.5世帯)の計7人で暮らす。

 1階は基本的には親世帯のスペース、
2階に子世帯のリビングダイニングキッチンと次女親子の個室、
3階に子世帯の個室がレイアウトされている。
玄関、内階段が2つずつあり、2階の子世帯と次女親子の
スペースの間は壁で行き来ができないようになっているが、
将来家族構成に変化があった際は、
簡単なリフォームでつなげるよう設計されている。

 2つの玄関ホールの間には間仕切りがあるが、
「住んでみたらいつも開けっ放し(笑)。
設計は親世帯と子世帯を完全分離スタイルにして、
お互いの独立性を確保したいというのが基本でした。
たとえば妻の両親が来た時、気兼ねなく過ごしてもらいたいから。
でも実際は毎日行き来して、夕食も残業で帰宅が遅い僕以外は
全員一緒に食べてます」
と長男。

 同居前からさぞかし仲のよい7人だったのかと思いきや、
こんなに交流するようになったのはこの家を建ててからだとか。
2007年に長男夫婦が結婚。すぐ目の前の借地に建てていた
実家が賃貸併用住宅だったので、その賃貸部分で新婚生活を始める。
2010年に今の家が建つまでは親世帯と一緒に
行動することはなく「ご飯食べるのなんて正月くらい」(長男)
だったというから意外だ。

あまり一緒に行動することがなかった義理の家族との同居に、
お嫁さんは躊躇しなかったのだろうかと尋ねると、
「お付き合いしている頃から『実家を二世帯住宅に建て替えたい』という夫の希望は聞いていたので、いずれ同居が前提だと
自然に納得していました」
との答え。

逆に、それまで両親と同居していた次女は、
実家建て替えの話が出た時に心配になったという。
「ああ、出て行かなくちゃならない時がきた、と思いました。
ちょうどその時正規雇用でなく、アルバイトだったので不安でしたが、私の部屋も用意してあるから、と言ってくれた兄の一言が
すごく嬉しかった」
と当時を振り返る。

 住むに当たってのルールは最初に決めたわけではなく、
自然にできていったそうだ。
毎日皆で食べる夕食の仕度は60代のお母さんの役目に。

 現在はフルタイムで働く次女は
「仕事から帰って来てご飯があるのが嬉しいです(笑)。
子どもが一人にならないのもいい。
子どもは1階で両親の子どものように暮らしていますし、
兄の子のこともよくかまっています。
私もその子が可愛くてしょうがない。
何やっても、『いいよ』って言っちゃいます(笑)」。
長男の妻と次女の子どもも仲良くなり、まるで兄弟のようだとか。

 シングルマザーも、子どもも、高齢者も孤立しない暮らし。
 Sさんの例は理想的にも見える「現代の集住」スタイルで、
こんな風に仲良く暮らせるなら羨ましいと、私は思った。
 しかし一方で世の中には、義理の家族と同じ家に住むのは
気遣いが多そうで苦手、という人も少なくないだろう。

 リスクを避けられる、人が多いと助け合える、という
実質的なメリットを取るか。
 気遣いという精神的なストレスなく暮らすことを選ぶか。
 前者を選ぶ人は、むしろそうした「集まる暮らし」を
楽しんでしまえるタイプの人なのだろう。
 2.5世帯スタイルが将来に亘って増え続けるかどうかは、
社会や親子、家族のあり方と深く関わってくるに違いない。








2階、子世帯のダイニングキッチンでの皆さん。








3階建て、玄関が2つあるSさん邸外観。



リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗
リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹 中島早苗

1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。

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