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中島早苗の「心地いい場所」

2010年10月27日更新

リフォーム浜田邸を訪ねて

 私は他の媒体の依頼でも住まいの取材に行くのだが、
先日は、リフォームをした浜田さんの家に伺った。

 浜田加代さんは私と同年代だが、7年ほど前に
急性骨髄性白血病を発症してしまう。
 大変な闘病をされたはずだが、幸いにも骨髄移植ができ、
白血病そのものは快方へと向かっている。
 しかし、抗がん剤の副作用で呼吸器に障害が起こり、 酸素吸入が必要となってしまった。

 当時住んでいた家は地下1階、地上2階の3層構造。
 地下にお風呂があり、1階にキッチン、2階に居室があって
3階分を上がったり下りたりしなければならなかった。
 酸素吸入器から伸びる15mものコードを引きずりながらの、
上へ下への移動。。。

 加代さんのお母さんが見かねて、家をリフォームできないものかと
依頼先を探したという。
 そしてたまたまテレビ番組で見た、建築家の瀬野和広さん
http://www1.odn.ne.jp/aaj69100/
に連絡。
 瀬野さん率いる設計アトリエに頼み、リフォームをすることになった。

 加代さんにとって何より必要なのは、フラットなワンフロアで
朝起きて夜眠れるまでの時間が過ごせること。
 そこで瀬野さんは、1階にキッチン、食事の場、リビングと
バスルームにトイレ、そして加代さんの居室を集約し、
2階は2人の息子さんの部屋、地下はガレージと納戸というふうに
割り切ったレイアウトにした。

 このリフォームによって、加代さんが酸素吸入器のコードを
引きながらでも移動がラクになっただけでなく、
1階のオープンな空間が、家族や友人が「集まれる場」となった。

 キッチンと向かい合うようにつくられたカウンターテーブルの
席に着くと、壁に設けられた窓からは外の畑の緑が見える。
「キッチンがリビングを向いてるだけじゃダメ。
リビングがキッチンを向く仕掛けがなくちゃ」
と言う瀬野さんは、キッチン収納の中にテレビまで据え、
部屋にいる人が常にキッチンに注目するように意図した。
 確かにこれなら、カウンターに腰掛けたまま食事も、おしゃべりもでき、
テレビも見られて、ずっとここで過ごせてしまう。

 長寿社会でもあり、この先何十年という間に自分の健康が、
家族構成がどうなっていくのか、誰しも予測しにくいのではないか。
 そんな中で、住まいはどうあるべきなのか。
 常に私は考える。

 エコロジーの観点から、どうせ建てるなら、買うなら、
50年、百年ともつ家がいいと思うも、
その家が健在の間ずっと、体を、家族を合わせられるのかどうか。

 それならいっそ、骨組みだけはもつように丈夫につくっておいて、
いわゆる中身、つまり間取り、間仕切り、インテリアデザインは
体や家族構成、ニーズが変わった時に変えやすい、変えられることを
前提にした方がよいのではないか。
 そして、変えることが前提ならば、
変えるための資金も用意しておく必要がある。

 そんなことを考えると、必要が生じた時に
住まいを変えられるというのは、ラッキーなことなのかもしれない。
 変えたくても、備えがないと変えられないのだから。。。

 取材の日は、加代さんのご両親も見えて、賑やかにお話を伺った。
 リフォームをして大成功、と喜ぶお母さんの安心した気持ちが
よく伝わってくる。

 

加代さんがこれからもお元気でありますように。。。
癌が二人に一人という割合で、
残念ながら身近になってしまったこの時代、
他人事でなく祈った秋の午後だった。


1階、リビング空間からキッチンに向かって。キッチン側の床は、カウンターテーブルの席に着いた人と視線が合うように、少し低くなっている。右手の土間風玄関ホールは、そのままテラスへとフラットに続いている。


1階、キッチン側から見る。正面が加代さんの居室、右手がバスルーム&トイレ。引き戸は吊ってあるので、床に段差がない。



中央が加代さんとご両親、左端が瀬野さん、右端が設計アトリエの星谷好慶さん。

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リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗
リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹 中島早苗

1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。

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