2012年12月19日更新
最終回・トロントの家族
突然ですがこのエッセイは今回が最終回。トロントに来て間もない頃から始まった連載、いつも読んで下さってありがとうございました。新参者がピンポイント的にトロントの側面を語らせて頂きましたが、最後はうちの家族について書かせていただきます。
これまで移民の家族、同棲カップル、同性婚など種々様々な家族について書いてきたけれど、うちの家族は人獣混合…要するに私達人間夫婦+猫2匹という構成。猫は2匹とも雑種のオスで、ご覧のとおり1匹は日本でもよく見かける、薄茶に白い靴下を履いたような短毛種のレオ。カナダでは「ジンジャー」と言われる毛並みで男の子が多い。もう1匹はカナダでよく見かけるけれど日本ではあまり見ない、キジトラの長毛種プジョル。ノルウェージャンフォレストキャットの末裔かと勝手に思っていたところ、プーチン大統領が日本にプレゼントしたというロシアの猫サイベリアにもよく似ている。どちらにしてもその昔、ご先祖が北国から来たのは間違いない。
彼らが我が家にやって来たのは今年の5月。新しい家に引っ越して一番の夢だった猫の養子縁組について調べているうちに、へぇー知らなんだーという仕組みが色々とわかってきた。
まず、オンタリオ州では基本的にペットショップでの犬猫の展示販売は禁止。照明の照りつける中で色々な人が訪れるような環境は虐待とみなされるようで、純血腫が欲しければ直接ブリーダー宅に出向くシステム。ただし特定のペットショップはトロント市の動物保護センターと提携していて、犬や猫達が期間限定で展示されている。彼らは野良か、飼い主が育てられずに手放した子たち。普段はトロントの東西南北4箇所にある保護センターで暮らしていて、少しでも引き取られる機会を増やそうとローテーションでペットショップにやって来るのだ。
そう、他にもNPO法人による仲介、養子縁組フェア、動物病院の張り紙、ネットの掲示板etc.でもペットのやり取りがある中で、皆がよく利用しているのはこの市営の保護センター。私も色々回った末、レオとプジョルに出会ったのは一番近くにある保護センターでだった。引き取る際には条件があって、
・家族全員で迎えに来ること
・面接とアンケート(住所と連絡先、一軒家かアパートか、1日に何時間家を不在にするか、将来日本に帰る時は一緒に連れて行くのかなど)
・すぐにかかりつけの獣医を見つけて健康診断と予防接種を受けさせること
等々。
そして避妊/去勢手術やこれまでに受けた健康診断&予防接種代(狂犬病など)と税金に年間登録料を足した額を支払って、めでたく引き取られることになるのだ。
ところでこの年間登録って何?
それは、市が犬や猫1匹1匹を管理するために義務付けている登録システム。日本でいう犬の鑑札のようなものだが、トロント市では猫にも登録義務がある。何のためかというと主に迷子になった際に活躍するもので、首輪に登録番号入りのタグをつける、小さい時に耳の中や内股にタトゥーを彫るなどいくつかの方法があるのだが、現在主流になっているのは個体情報入りのマイクロチップ。犬や猫の体内に米粒ほどのマイクロチップを埋め込んで、万一彼らが迷い犬や迷い猫になった際、専用のスキャナーを当てて体の中にある登録番号を判読するのだ。タグは首輪から外れたり、タトゥーは成長してインクがぼやけることがあるけれど、マイクロチップなら紛失する心配もなく、半永久的に体内温存される。そのうち人間の各種IDも体内埋め込み式になるかも?
日本の実家にはのべ8匹の猫がいたけれど、それぞれ迷い込んできた元野良猫や、近所や知人から貰った猫やその子供たち、果てはよその猫まで上がり込んでくるという鷹揚さだったので、こんなに色々な決まり事があるのにはちょっと驚いた。カナダでは猫権が結構敬われているのかもしれない…でも。ネットの掲示板をチェックしていた時に「猫を引き取ったけれど家族が猫アレルギーだったので誰かもらってちょうだい」という人がなんと多かったことか。それこそ猫も杓子も猫アレルギーなわけないだろ、という程で。次の飼い主を探そうとするだけよいのかもしれないけれどね。
そんなわけで、このキメラ家族が誕生してから半年ちょっと。
身上書に「神経質」と書かれていたレオはすっかり甘えん坊になり、推定生後6ヶ月の子猫だったプジョルはクジラのように丸々と発育中。彼らのお陰でトロント暮らしにようやく輪郭が描けてきたみたいなのだ-ということで、またいつかお会いしましょう!
- Kyuena キュエナプロフィール
- フランス→日本→カナダと移動生活中。
人種のモザイク都市・トロントでの楽しみは、
ベジタリアンインド料理とアールデコ建築探し。
仏語&医療翻訳と物書き業稼働してます。
現在、トロントの日系情報紙『bits』で連載中。