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トロントひとかけら

朝日を背にドライブスタート

気合い…
ジャンプ!

緑一色のフラワーポット島を歩く

奇岩=フラワーポットがにょきりと出現

2011年09月28日更新

ブルース半島へ

トロントは車社会だ。トレッキングエリアやキャンプ地をはじめ、近郊の町やショッピングモールなど鉄道やバスなどの公共交通機関がいっさい通らず車でしか行けない場所が沢山ある。
そして我が家はノーカー生活。辛うじてダウンタウンのはじっこに住んでいるので、車がなくても日用品の買出しに困るという程ではないけれど、休みの日にカナダの自然を満喫するのはちょっと難しい。
トロントに引っ越してきた頃、地図を見ながら街歩きをしてみたら一区間一区間がものすごく遠くて、しかも日本の2-3倍くらい大きなトラックがビュンビュン走るのが恐ろしくて毎度ぐったりと家路に着いていた。とにかくいろんなものが道路を通っていて、50メートルほどの電車の車両や家屋が丸ごと車で運ばれたりしている。人間よりも大きな顔をして自由に走っていく車を羨ましいやら憎らしいやら思いつつ私は暮らしている。

そんなある日、いつもお世話になっているご家族が一泊ドライブに誘ってくださった。行き先はトロントから片道4時間のブルース半島。
北米五大湖のひとつヒューロン湖とジョージア湾の間に突き出した細長い半島で、もともとネイティブアメリカンのオタワ族やオジブワ族が住んでいた場所だ。以前目にした写真であまりにも透明な青い水をたたえた静かな湖に心を奪われていたけれど、トロントからは車以外に行く方法はなし。インターネットでもバスツアーさえ見当たらなかった。行きたくても行けなかった憧れのブルース半島に連れて行ってもらえるなんて、本当にありがたい。
私は早速半島の先にあるB&Bを予約して旅行計画を練りはじめ、カナダに来て初のドライブ旅行を待ち焦がれた。

旅行当日の朝5時に真っ暗なトロントを出発してしばらくすると、後ろの窓に朝日が射しはじめた。眠たい目にはまぶしいばかりの太陽が輝いて、ここ最近続いている快晴の一日の予感がした。ところが国道6号線をひたすら北上しているとボトボトと大粒の雨が…あっという間に辺りが真っ暗になって、あちこちに稲妻が炸裂。私達の車はどしゃ降りの雷雲と一緒にブルース半島を進むことになってしまった。
車を降りるに降りられないほどの大雨が半島の先の町に着くまで続いたけれど、幸いなことに湖畔に到着する頃には雷雲もいなくなって外を歩けるように。よかった。

そこからブルース半島散策がはじまった。国道から一歩入った人気のない沼や林の現れる小道を20分ほど歩くと、突然岩場だらけの湖畔が現れる。そして目の先にある湖の色は、想像通りの透きとおったブルー!しかし湖にしてはあまりにも広大で野性味あふれるその場所はもはや海そのものだ。

目の前には水着姿の若者や家族連れが岩の上で、水の中で、夏の終わりを楽しむ光景が広がる。私達もそびえる岩場によじのぼって下を覗くと、真っ青な水をたたえた洞窟を見下ろせた。吸い込まれそうでゾクッとする。
さらに上へ上へと進んで行くと、切り立った岩の上に数人の若者が立っている。どうやらここは湖への飛込み地点のようだ。湖底の岩に激突しそうで見ているだけで怖いんだけど、順番が回ってきた子も「ちょっと待って、落ち着かせて」とビビっているんだけど、少し後ろに立った鬼軍曹のような青年がじっと見張ってプレッシャーをかけている。観念して勢いよく湖に飛び込む子たちは全員垂直に足から着水して、ほっ。
泣きそうな顔だった子も一度飛び込むと快感になるのか、また岩を登っては飛び込む。またドボン、またドボンと延々と繰り返している。この意味のない繰り返しをひたすら続けられる若さと、冷たい水をものともしないエネルギーが私にはまぶしすぎる。

翌日は半島の先から小型船でフラワーポット島に到着。
ここは国立公園に指定されているグリーンの島で、とにかく足元から頭の上までフサフサの苔やワサワサの葉っぱが生い茂っている。突然大粒の雨が降ってきても鬱蒼とした木々に守られてまったく濡れずにトレッキングできるのだ。
そもそも五大湖はその昔氷河に覆われた地だったのが、今から約1万年前の氷河期の終わりとともに氷が溶け出し、土砂に削られた部分に水がたまって現在の5つの湖が生まれたらしい。このフラワーポット島も元々は湖底の一部だったわけで、氷河によって削られた花瓶型の奇岩が島からにょっきりと生えているのがその名の由来。太古の昔に思いを馳せながら、湖底散歩気分で緑色の岩道を進むのが楽しかった。

トロントと同じオンタリオ州にこんな神秘的な場所が残っているのも、車でしか行けない不便さに守られているおかげなんだろう。この貴重なドライブ旅行で出会った青い湖や緑の島を思い出せば、殺風景なダウンタウンの自動車道にも夢がある…と思える感性が日々続きますように。






ライター Kyuena キュエナ

Kyuena キュエナプロフィール
フランス→日本→カナダと移動生活中。
人種のモザイク都市・トロントでの楽しみは、
ベジタリアンインド料理とアールデコ建築探し。
仏語&医療翻訳と物書き業稼働してます。
現在、トロントの日系情報紙『bits』で連載中。

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