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「三角の家の田中です」


2階キッチン横の椅子では、鍋底をかき混ぜながら本を読んだりビール飲んだり。ここから見る部屋の風景も好き。


1階の薪ストーブ前に置いたソファ。スリット窓以外は開口部がなく、閉じて落ち着いた雰囲気。夏涼しく冬暖かい。


大きなクッションを置き、床座でゴロゴロするスペース。時間と共に壁を撫でる光の帯がきれい。

2009年02月04日更新

巣篭もりの楽しみ

 昨年秋以来の景気後退の影響なのか、年末頃から「巣篭もり消費」という言葉を聞くことが多くなった。

 外出すると何かと出費がかさむので、自宅(巣)で過ごす今どきの消費スタイルのことなのだとか。具体的には、外食せずに家で鍋を囲むとか、旅行に行かずに家で家族みんなでWiiをするとか、そういった暮らし方のことを指すようだ。

 カルタがお正月によく売れた、なんて話もニュースで見た。家にいる時間が長くなると「もっと楽しく快適に暮らせる方法はないものか」などと考えはじめる方も、きっと増えてくるのではないでしょうか。

 ところで、建築家が建てた家の取材記事を雑誌などを読んでいると「この家に住んでから、すっかり旅行に行かなくなりました」という類の建て主のコメントをよく見かける。以前はへーそんなものなの?と思っていたわたしも、三角の家を建てて以来、すっかり出不精になってしまった一人だ。

 雰囲気のあるレストランやリゾートに出かけるのは今でももちろん好きだけど、ずっといると何となくムズムズと落ち着かなくなり、家に帰りたくなってしまう。家のほうが格段に居心地が良くなってしまったのだ。

 ただ、説明が難しいのだが、旅行などから帰ってきた時の「あーわが家がやっぱり一番!」という感覚とは、ちょっと違う。慣れ親しんだわが家といった心地よさとは異なる、もっとアクティブでワクワクするような楽しみ方があるような気がするのだ。

 三角の家は小さなワンルームの一戸建てだが、真ん中の吹き抜けを挟んだ各階スペースと屋上に上がる塔屋スペース、全部で6つのスペースがある。建物の側面を閉じ屋上の塔屋から光を取り込むつくりなので、フロアによって明るさが異なり、それぞれのスペースも視覚的に閉じたり開いたりしていて印象が違う。

 そこに、それぞれ座り心地のいい椅子やらソファ、クッションやらを常時スタンバイさせてあり、さて今日はどこで過ごそうかと考えるのがささやかな楽しみになっている。

 週末など時間のあるときは、本や新聞を片手に家中をうろうろし、その時の気分や天気、光の加減、暑さ寒さによって猫のように一番気持ちのいい場所を選ぶ。

 自宅という守られた安全な場所でグダグダとしながら、窓からの風景、吹き抜け越しの室内の眺め、壁を這う日差しの動き、塔屋越しの月、石灰クリームのざらりとした壁にぼんやり反射する灯りなどを眺めていると、時々とてつもない幸福感に包まれる。

 生活の中で最も長く過ごす場所に空間としての造形美があり、自然がもたらす不規則な動きを居ながらに感じられ、自分が好きなことを好きなだけできる。これじゃ出不精になりますね。

 窓から絶景が見えるわけでもないありふれた住宅密集地に、こうした風景をきちんと用意してくれた建築家M氏は、きっとものすごく想像力豊かなロマンチストなのだろう。素人にはとてもマネのできない建築の力だと思う。

 なんにもしなくてもいるだけで楽しめるし、住みながらいろいろ自分なりに工夫して新しい楽しみを生み出すことができる。そんな可能性がたくさんある家に住めば、生活の質はぐんと高くなってくる。

 「巣篭もり消費」という言葉には、生活防衛的な、どこか後ろ向きな響きが強い。でも家にいることって案外悪くないなと、みんな少しずつ気付きはじめているような気がする。

 少し視点を変えて、自分と家族の時間を大切にするライフスタイルなのだと考えれば、これまでとは違った豊かさを手に入れるチャンスなのかもしれない。巣篭もりの幸福感は生き物としての本能的な喜びに近い、といったら少し大げさでしょうか?

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