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パリで暮らす、食べる、遊ぶ

よく待ち合わせに使ったメトロ・マビオンの駅

マルシェ・サン・ジェルマン。昔ながらの市場や市民プールもあります。

思い出のレストラン。もうあの頃とはレストランのオーナーも変わったようですが。

2011年09月21日更新

私のパリ、そしてあなたのパリを

こんにちは。カオリです。前回のアリオちゃんの最終回からすでに4ヶ月以上、私の前回からは半年以上たってしまいました。この間に日本では東日本大震災がおこり、当初は遠く離れた地で何ができるのか、何をしないといけないかも考えられないまま、呆然とテレビに映し出される信じられないような映像に見入るという状況でした。自分の国の人々が大変なことになっているのに、自分の回りではいつもと同じ日常が繰り返されていることへの苛立ちなんかもあり、自分の国から遠く離れて暮らすこと、そして家族から遠く離れて暮らすことについて、あらためて考えさせられました。

私事になりますが、私の両親や兄弟は日本にいますが、夫はアメリカにおり、私と夫の仕事の都合上、結婚以前も結婚後も一度も一緒に生活をしたことがありませんでした。けれど、この夏から仕事を一年お休みをもらって、アメリカへ引越しをし、夫と生活をすることにしました。もちろん、このことは、地震がおこる前から決めていたのですが、今回の地震によって、人生の中でいったい何が本当に大切なのかを再度考えることとなり、少しいろいろな迷いをふっきることができ、7月にアメリカへと旅立ちました。

さて、当初は短期のつもりだった私のパリでの生活も12年となりました。実のところ、パリに住み始めたころは、言葉がまったく話せなかったこともあり、フランスが、そしてパリが嫌いで、嫌いで、どうしてこんなところにやってきたんだろうと思って暮らしていました。そんな風に思って暮らしていると、ますます何もかもがうまくいかず、なんだか、絶えず、いろんな人がいろんなところで意地悪で怒っているように感じ、そしていろんなことがますます非効率で進まないように感じ、それがさらにイライラを増幅させるという悪循環にはまっていたように思います。

けれど、そんなパリに対する私の感情が徐々に変化しているのに気づいたのはいつごろからでしょうか。パリはやっぱりパリで、フランス人はフランス人で、ここでのこの人々との生活は、他人を思いやる力に長けている日本人との慣れ親しんだ日本での生活とは違っていてあたりまえ。そんなこと、頭では分かっているつもりでも、気持ちがついていくのに時間がかかってしまったのかもしれません。パリは良い意味でも悪い意味でもとても人間くさく、ここを離れる今、こんなに自分がパリが大好きで、フランス人が大好きだったのかと再発見して驚いています。

さて、「パリで暮らす、食べる、遊ぶ」というタイトルだったのに、これまでパリで起きたトラブルばかりを書いていたように思います。パリではこの12年、しっかり暮らし、しっかり食べて、そこそこ遊んだのに・・・。それは、やっぱり、パリで起こるトラブルが人間くさく、その最中は大変なんだけど、あとになってみれば、ちょっと笑っちゃうようなものにいつの間にか変わってしまうので、結局、そのトラブルにも愛着がわき、ついつい書きたくなってしまうからでしょうか。しかし、あまりにトラブル話ばかりというのもパリに申し訳ないので、最後に、私がパリを、そしてフランスを大好きな3つの理由をを紹介したいと思います。

まず、本当に大好きなのが、どこでも誰でも知らない人でもみんな気軽に「ボンジュール」「メルシー」と挨拶をすること。そして、そのときの状況ではそのまま、世間話へと。この世間話、スーパーでレジの計算を待っていて、自分の前の人がやりはじめるとちょっとイライラするんだけど、アパートの廊下やエレベータで、また、パン屋さんやお惣菜さんでのこのちょっとした挨拶に気持ちが救われたことが何度かありました。パリにきて、本当に挨拶の大切を再認識しました。二番目に、これは一般的にもよく言われていることですが、仕事より私生活の方が大切だということを、社会が認識していること。これは、小さな子どもがいる同僚をみても良く感じたし、忙しい仕事の日々の中で、私がなんとかこうして何年間か遠距離結婚を続けてこられたのもこの共通認識のおかげだと思います。この考え方の是非は別として、こういう社会で生活できることはとても幸せなことだと思います。最後に、地元の小さなお店やレストランを国が大切にして保護していること。チェーン店ではない独自のカフェやレストラン、そしていろいろな小規模小売店の数々がパリをパリたらしめる素敵な魅力をもたらしているのではないでしょうか。自分のお気に入りのお店を見つけ、そこへなんとなくでかける週末が私のパリの生活を作ってきたのかもしれません。

そんなパリの週末のことを考えるといつも思い出すのが、アリオちゃんとJちゃんと出かけたマルシェ・サン・ジェルマンの近くの小さなレストラン。いつものように3人でマルシェ サン・ジェルマン周辺にあるいろいろなレストランの中から、その日の気分にあったひとつを選びゆっくりランチを楽しみました。ちょうどお天気のいい日で、私たちのテーブルの横には大きな窓があって、その窓からほんとうに気持ちのいい風がはいってきていました。3人で食後のコーヒーを飲みながら、そして風にふかれてぼ~とまどろみながら「私たち、幸せだね~」なんて話をしていました。仲の良い友だちと楽しくランチをしたということをとても素敵な思い出にしてくれるのが、パリという町の魅力なのでしょうか。

これまで、アリオちゃんと私のパリの生活をつづったこの連載にお付き合いくださいどうもありがとうございました。アリオちゃんも私もパリを離れてしまいましたが、パリは私たちにとっていつも大切な街であり続けるのだと思います。そして、もし、みなさんがパリを訪れる機会があれば、みなさんがみなさんの素敵なパリに出会えることを心よりお祈りしています。

パリ在住 カオリ・有緒(アリオ) 

カオリ・有緒(アリオ) プロフィール
*カオリ
早いものでパリでの生活、11年目に突入。毎日、セーヌ川左岸にある職場と家の往復のみで、いまだにマレ地区に足を踏み入れたことさえないくらいのパリ音痴。アメリカに暮らす夫と遠距離結婚中。

*有緒(アリオ)
ほんの1、2年ほどのつもりが、気づいたら6年目近くにも及ぶパリ生活。日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われながらも、のほほんとした毎日。住んでいたのはサンジェルマンデプレといえば聞こえがいいだけの、築二百年近い古びたアパルトマン。趣味は、友人に料理を作ることと、アンティーク家具や骨董品などのガラクタを買うこと。 最近、東京に拠点を移しましたが、まだパリと行ったり来たりが続きます。最近初の著作となる「パリでメシを食う。 (幻冬舎文庫)」を出版しました。

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