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パリで暮らす、食べる、遊ぶ

2010年11月17日更新

もう一つの、パリを走ろう物語

こんにちは、アリオです。前回カオリさんが「パリを走ろう」について書いてくれました。自転車、ランニングと健康的にこの連載も続き、私はさらに、もう一つの「パリを走ろう」物語を書いてみます。ちょっと昔に遡り、パリに来て二年目のこと。
なぜか唐突に車を買ってしまったんです。それも、メルセデスベンツ。こう書くと全く柄にもなくバブリーな感じなのですが、現実は激しく逆なのです。

ある日、職場の同僚が、日本に帰国することになり車を売りに出しているとの話を耳にしたのがコトの発端。それは、15年落ちで走行距離は14万キロとこれ以上ないほどの中古車で、希望価格は約30万円。私は運転が大好きなので、そのうち車を買いたいな~と漠然と夢見ていたのも事実。ためしに売主と話をしてみると、「買わなくてもいいから試乗してみてよ」とのこと。しかし、私はそれまでの数年、由緒正しいペーパードライバーだったので、パリの街中でフルサイズの車を運転するというコンセプトに恐怖を感じ、友人に代わりに運転してもらうことにし、何となく15分ほど近所を走り回ってみました。
「さすが、ベンツだなあ。15年経っているのに、エンジンの調子はいいし、ハンドリングも軽快!すごく運転しやすいよ!」
と友人は解説。古いのにボディは光っていて、中もキチンと掃除されています。でも、どうみても、女子の車じゃなく、一昔前のお父さんの車といった風情。私はやっぱり小型車で可愛いらしい車種が希望だったので、実は試乗前から「やっぱりちょっと違うかも」と思っていました。第一、この大きさじゃ路地に入っていくのも、路上駐車も大変。なので、試乗させてもらって申し訳ない限りなのだけれど、「買いません。。。」とお断りし、その車のことはすっかりと忘れていいました。

ところが、その二週間後、その売主が私のオフィスになんの前触れも無く現れたんです!
そして彼はずばり。
「実は車が売れなかったんです。やっぱりみんなもっと新しい車が欲しいんですねえ。でも、もう帰国も迫っているので廃車にしようと思ったんですが、それもお金がかかるし第一もったいなくて。だから、もういくらでもいいから買ってくれませんか?」
と迫ってきたのです。私は完全にタジロぎながら、「ええと・・・」と口ごもり、脳がすごい勢いで回転し始めました。

もともと車は、欲しかった。しかし、車は今の生活にまったくといっていいほど必要の無い贅沢品だ。しかし、今その最大のチャンスが目の前で転がってる。しかも値段もいくらでもいいらしい。 しかし、あんなでかい車、自分の欲しい車とはぜんぜん違う。 それに、そもそも私は一回もあの車運転してない。 試乗もしないで車買うなんて狂ってる。 どうしよう・・・!

そして、・・・気がつくと「買います」と答えていました。
答えた自分が一番動揺していました。
どうして、心とは反対のことを答えてしまったのか今でもフシギなのですが、その後商談はトントンと進み、その車は十万円で私のもとにやってくることになりました。
もちろん、問題はその後です。
一番の頭痛のタネは私の運転技術!
そもそも最初に運転を覚えたのは、アメリカ。たぶんアメリカならば多少のブランクがあっても問題なく運転できるはず。だって、道が広くてまっすぐだから。しかし、パリはよく言えば世界有数の運転の難所、はっきり言えば交通無法地帯なのです。道は迷路のように複雑に交差し、どこも細く、一方通行が一杯。 運転マナーは劣悪。信号を守らない、ウインカーを出さないは当たり前。10センチの隙間を争い、いきりだった輩が一杯。 歩行者がいたるところで、道を横切っている。 スクーターがチョロチョロと不愉快に走り回っている。

こんな運転者泣かせの町を、初めてのフルサイズ車で走り回るのは自殺行為だ!という結論に至った私は、
車が手元にやってきても、ハンドルに指一本も触れず、ただ通勤途中にたまに眺めて「あ、車はまだある、よかった!」と確認するだけで一週間が経過しました。しかし、同僚や友人が
「ねえねえ、いつになったら運転するの~。あのさ、買っちゃったんだからいつか始めないといけないんだよ。このまま運転しないなら、もったい無いから貸してよ~。」
「たまにエンジンかけないとバッテリーあがっちゃうよ。何せ古い車なんだからさ」
「早くIKEAに連れてって!!」
などと心優しいプレッシャーをかけてきたので、いつまでもこうしてられないわ、と決心し、独自の練習コースを組むことにしました。
その続きは次回に。

パリ在住 カオリ・有緒(アリオ) 

カオリ・有緒(アリオ) プロフィール
*カオリ
早いものでパリでの生活、11年目に突入。毎日、セーヌ川左岸にある職場と家の往復のみで、いまだにマレ地区に足を踏み入れたことさえないくらいのパリ音痴。アメリカに暮らす夫と遠距離結婚中。

*有緒(アリオ)
ほんの1、2年ほどのつもりが、気づいたら6年目近くにも及ぶパリ生活。日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われながらも、のほほんとした毎日。住んでいたのはサンジェルマンデプレといえば聞こえがいいだけの、築二百年近い古びたアパルトマン。趣味は、友人に料理を作ることと、アンティーク家具や骨董品などのガラクタを買うこと。 最近、東京に拠点を移しましたが、まだパリと行ったり来たりが続きます。最近初の著作となる「パリでメシを食う。 (幻冬舎文庫)」を出版しました。

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